吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

愛を読むひと

 原作を読んだときほどの衝撃や感動はなかったが、別の意味でとても深い味わいがあった。この映画は原作未読のほうが感動するだろう。映画を見た直後には、「原作よりテーマが増えてより深くなっているのではないか」という感想を抱いた。テーマは、ナチスの戦争犯罪。それを戦後世代がどうとらえるのか、という問題だ。
  
 最後が原作とかなり違うような気がしたので、後日、再読してみた。原作を再読し終わると、一層この映画のよさが引き立つ。原作→映画→原作と鑑賞したが、映画をもう一度見たくなった。原作のよさと思想をデヴィッド・ヘアは余すところなく伝えるよい脚本を書いている。特に、ブルーノ・ガンツが演じた教授は原作よりも大きな役目を負って、原作でミヒャエルが自問自答する法と裁きの問題への議論を受け持つ。


 原作が時系列に沿った回想記であったのに比べると、映画はダルドリー監督らしく過去と現在を混在させて、現在の中年になったミヒャエルの沈鬱な表情を何度も映すことにより、彼の若い頃の恋が苦いものに終わったことを映画の巻頭から強く示唆する。大変雰囲気のいい映画である。アメリカ映画なのにヨーロピアンテイストがあり、落ち着いた味わいがある。さらに、原作よりも遙かにドラマティックに裁判の場面を演出する。ケイト・ウィンスレットの演技が絶妙であり、彼女はハンナの雰囲気・誇り・戸惑い・ためらいをよく演じきった。観客はハンナという女性の気高さをケイト・ウィンスレットを通じて感じ取ることができるだろう。


 裁判長に向かって「あなたならどうしましたか?」と鋭く、しかし素朴な疑問を投げかける、困惑したハンナの表情は素晴らしかった。この一瞬、法廷は緊張に包まれる。原作がもつこの深く鋭い問いが、残念ながら小説ではさらりと一行の台詞として流れてしまうため、その重さに気づきにくい。だが、映画だと、ここがキモだとわかるのだ。


 ラストにミヒャエルの娘を登場させ、ハンナの墓に連れて行くシーンを挿入したことも、映画的な成功だと思う。原作にほとんど忠実に作られた映画だけれど、ここだけは原作と異なり、ドイツの3つの世代に亘る物語としたことがよかった。娘に語り継ぐ戦争責任(とそれを問う/裁くことの困難)、これは今後ドイツの、そしてすべての「敗戦国」の人々が負っていく物語だ。


 ひとつだけ、気になる瑕疵を挙げておこう。人物が皆、英語でしゃべっているのは違和感あり。ブルーノ・ガンツにまでわざわざ英語でしゃべらせるなんてちょっとどうかと思うが…。

 
 ところで、この映画も一つの「図書館映画」である。ここに登場する図書館は「刑務所図書館」である。ハンナが刑務所の図書館(「図書室」と呼ぶべきか)で本を借りて読む、そのことが彼女の人生を変える。これほど図書館が人に大きな影響を与える場面を感動的に表している映画はめったにない。


 原作再読後の感想を下に記す。
 
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THE READER
124分、アメリカ/ドイツ、2008年
監督: スティーヴン・ダルドリー、製作: アンソニー・ミンゲラシドニー・ポラックほか、原作: ベルンハルト・シュリンク『朗読者』、脚本: デヴィッド・ヘア、音楽: ニコ・ムーリー
出演: ケイト・ウィンスレットレイフ・ファインズ、デヴィッド・クロス、レナ・オリン、ブルーノ・ガンツ