吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ロレンツォのオイル/命の詩

 息が詰まるような感動作だ。難病の息子のために見を粉にする親の愛が素晴らしいとか、そういう類の感動ではない。親の愛のすさまじさに圧倒され腰が引けてしまう、そういった意味での感動作なのだ。

 ロレンツォは6歳。遺伝性の難病副腎白質ジストロフィー(ADL)を発病した。発病から2年以内に死に至る不治の病だ。極めてまれな病気なので研究も進まない。日に日に弱り病状が悪化する息子の世話に明け暮れる両親は、治療法を求めて図書館へ通い、文献を調査し、必死の努力を惜しまない。彼らの努力はついに治療に有効な「オイル」(脂肪酸)を見つけることに成功し、積極的な治療と研究を渋る医学者たちを動かすに至る。

 実話が持つ重みを強く感じさせるこの映画は、優れた脚本と役者の熱演によって手に汗握るドキュメントに仕上がっている。どんな映画のときも熱演するスーザン・サランドンは、本作でも、生活のほとんどすべてを息子のために費やす母親を鬼気迫るまでに熱演する。
 この映画の優れている点は、惜しみない愛を子どもに注ぐ母親に対してクールな目を向けていることだ。子どもへの愛は利他的であると同時に利己的だ。息子を愛するあまり、母は周りが見えない。息子のためならアフリカから若者をアメリカに呼び寄せてしまう。それもほとんど騙すように。
 また、彼女は自分と同じような態度で息子に接しない他者を許さない。自分と同じように患者を愛さない看護婦の首を切り、自分と同じように行動しようとしない「患者の親の会」会長夫婦を糾弾し、自分達のように必死に研究しない医者を責める。
 患者の親といっても考え方は様々であり、子どもの苦しみを無闇に長引かせたくない親だっているのに、ロレンツォの両親にはそういった配慮がない。医者は大勢の患者に責任があるのだ。ロレンツォ一人の医者ではないし、慎重にならざるをえないのに、ロレンツォの親にはそれが優柔不断で責任逃れのようにしか見えない。
 彼らのように息子の延命だけを執念のように追いつづけることが果たして「正しい」ことなのだろうか? そんな疑問を作品の中にきちんと織り込むことをジョージ・ミラー監督は忘れない。

 ロレンツォの両親は死に物狂いの努力の末に「オイル」を見つけ出した。そこには多くの幸運もあった。銀行員という経済的に恵まれた環境、医学文献を読みこなすだけの知性、オイルを抽出してくれる薬品会社社員の努力、そういった諸々の条件が重なってはじめて奇跡は成し遂げられた。もちろん、なによりも両親の愛と執念と努力がなければ幸運もついてはこなかっただろう。「奇跡」は奇跡的に生まれるのではないことを痛感させられる。

 スーザン・サランドンが発作に苦しむロレンツォを抱きしめながら「耐えられなければ天国へ行ってもいいのよ」と泣く場面には、胸を締め付けられる。
 単純な家族愛賛歌や奇跡物語でないところが秀逸な作品。一見の価値あり。(レンタルDVD)

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Lorenzo's oil
136分,アメリカ,1992
制作・監督・脚本: ジョージ・ミラー,製作総指揮: アーノルド・バーク,脚本: ニック・エンライト
出演: ニック・ノルティ,スーザン・サランドン,ピーター・ユスティノフ,キャスリーン・ウィルホイト,ゲイリー・バマン