吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

きっと、星のせいじゃない。

 

ヒロインの可愛らしさに惹きこまれた2時間余り。お涙ちょうだいの難病ものじゃないところがよかった。高校生の癌患者二人の切ない初恋物語だが、どこにも泣ける箇所がなくて、むしろさわやかと言うか、なんであの若さで達観できるのか、と不思議になるぐらい主人公二人が潔いものだから、感動してしまった。

 17歳の末期がん患者ヘイゼルは癌患者の集りで知り合ったオーガスタスと意気投合する。二人とも余命いくばくもない命なのだが、その最後のきらめきを全身に溢れさせて互いを求め、お互いを見つめるだけではなく、共に関心を持つ事柄の究明に突き進む。ここで二人が取りつかれたテーマは「小説のラストの続きを知りたい」ということ。アメリカに住む二人が、お気に入りの小説の続きが知りたくて作家を訪ねてオランダまで出かけるのだ。その行動力に脱帽。ヘイゼルは肺がほとんど機能していないので、酸素ボンベを携行せねばならない。その身体でオランダまで行き、「アンネの日記」のアンネの隠れ家を訪ねたりする。こんな、ふつうのオランダ観光すら彼女たちにとっては命がけなのだ。 

 わたしは小児癌で逝った子どもたちを知っている。どちらも最後まで懸命に生き、家族の愛のもとにあった。こういう映画を見ると、どうしてもその二人のことを思い出さずにはいられない。その二人は15歳と11歳で逝ったから、この映画の主人公たちのような青春物語は経験せずに人生を幕を閉じたわけだが、懸命に病とともに生きた少年少女のことを決して忘れることはないだろう。*1

 奇をてらうことなく作られたこの映画の中で、異彩を放つのはウィレム・デフォー演じる変人作家だ。この作家が曲者で、こういう人物を「善意あふれる人々の映画」の中に置いたことがこの作品のよさだ。そして、オランダで訪ねる先がアンネ・フランクの隠れ家であったことも象徴的である。思春期の日記を残したアンネが天寿を全うすることなく十代で逝ってしまったことが、ヘイゼルの心の琴線に触れるのだろう。 

 わたしたちは誰もが死を迎える。早すぎる死を受け入れて懸命に生きる主人公二人のけなげさに、わが身を振り返ってその怠惰さに恥じ入るばかり。生かされている、そのことに感謝して、そして星になった子どもたちのことを思って天を仰ぎたくなる映画。実際に子どもを喪った親が見たらどう思うのか、つらくて見ていられないのかどうか。生き残った親たちの心が少しでも穏やかになることを祈る。 

病気の子どもの願いをひとつだけかなえてくれる「ジーニー財団」というのはメイク・ア・ウィッシュ財団のことだろうか。

THE FAULT IN OUR STARS

126分,アメリカ,2014

監督: ジョシュ・ブーン、製作総指揮: ミシェル・インペラート・スタービル、アイザック・クラウスナー、原作: ジョン・グリーン 『さよならを待つふたりのために』、脚本: スコット・ノイスタッター、マイケル・H・ウェバー、音楽: マイク・モーギス、ナサニエル・ウォルコット

出演: シェイリーン・ウッドリー、アンセル・エルゴート、ローラ・ダーン、ナット・ウルフ、サム・トラメル、ウィレム・デフォー

*1:エル・ライブラリーでは、11歳で小児癌のために亡くなった井上玲子ちゃんを追悼する「れいこちゃん記念文庫」を開設している

http://shaunkyo.jp/reikobunko.html