吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

五線譜のラブレター

 1920年代から60年代まで活躍したミュージカルの作曲家コール・ポーターの伝記映画。
 晩年のポーターが自分の過去を振り返るのだが、その回想をミュージカル仕立てにし、ポーター自身が自分の過去の行いを観客として見ながらツッコミを入れるという、おもしろい構成になっている。

 1920年ごろ、売れない作曲家のコール・ポーターケヴィン・クライン)はパリにいた。そこで知り合った離婚歴のある美しい金持ちの女性リンダ(アシュレイ・ジャッド)に恋をし、たちまち結婚。そのとき、コールは「実は僕には趣味があって……」と打ち明けるのだが、リンダは意に介さない。「知ってるわ、オトコでしょ」
 晴れて二人は結婚するが、結婚生活が続く間じゅう、リンダはコールの男癖に悩まされることになる。売れない作曲家だったコールだが、リンダの手腕でブロードウェイへの進出が決まる。彼の作詞作曲する歌はほとんどすべてがリンダへのラブレターだ。美しく甘い曲想、ジャズテイストの音楽はたちまち大ヒットし、コールはハリウッドへも進出する。

 だが、コールの浮気癖は治らず、リンダは流産し、幸せそうに見える二人の間には亀裂が入る。映画の後半は二人に降りかかる離婚の危機と健康障害が描かれ、それまでの華やかさから一変し、悲しい場面へと転じていく。
 愛妻物語というふれこみの作品だが、その割にはコールはあまり愛妻家でもないような気がするんだけどね。確かに口では「愛している」とリンダに何度も言うし、劇中の曲がすべてリンダに捧げられたられたかのように、そのときどきの夫婦の機微にぴったりなんだけれど、コールは妻に甘えるだけの存在に見える。なぜリンダは彼をこのように甘やかし、許していたのだろう。
 あんなに美しければ誘惑の一つや二つや10や20はあっただろうに、腹いせに浮気するわけでなし、どうも腑に落ちない。妻リンダの気持ちをもう少し丁寧に描いて欲しかったところ。

 それにしても最近のメイクはすごいね。ケヴィン・クラインアシュレイ・ジャッドもほんとに年をとったみたいに見える。特にリンダの末期のやつれかたはすごい。その後、ぱっとリンダの若い頃が映るとその差異にびっくりしてしまう。このあたりの画面の切り替えや時間の往還はうまかった。

 あとは、小道具がしゃれている。コールが手がけたミュージカルの初日に毎回必ずリンダは高価でおしゃれなシガレットケースをプレゼントしていた。リンダもずっとスパスパ煙草を吸い続けているし、最後は肺ガン(?)で亡くなるのもむべなるかな。やっぱり煙草はいけませんねぇ。

 全編に流れる曲はポーターのスタンダードナンバー。ただ、コール・ポーターの活躍した時期が古すぎるので、わたしにとってのヒットといえる曲がほとんど出てこないのが最大の不満。ほかにも、ケヴィン・クラインの歌がうまくないとか、ミュージカル業界の裏話が出てこないといった不満もあるのだが、全体の作り方がとてもコミカルで楽しく、アシュレイ・ジャッドが魅力的。なかなかいいです、70点にしようかなと迷うぐらい。(レンタルDVD)

DE-LOVELY
125分, アメリカ合衆国,2004
監督: アーウィン・ウィンクラー,製作: ロブ・コーワンほか,脚本: ジェイ・コックス,作詞作曲: コール・ポーター
出演: ケヴィン・クライン,アシュレイ・ジャッド,ジョナサン・プライス,ケヴィン・マクナリー,エルヴィス・コステロ, シェリル・クロウ,ナタリー・コール<<