吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

愛の落日 クワイエット・アメリカン

 制作者にアンソニー・ミンゲラとかシドニー・ポラックとか、そうそうたる監督の名前が。いずれも社会派作品を撮らせれば一級の作品を作るんだから、ご自身で撮ればもっとよかったかも。

 1952年、フランス植民地下のベトナムサイゴンを舞台に、恋と政治的陰謀を描いたドラマ。当時まだアメリカはベトナム戦争に介入する前だったが、本作は裏での介入や工作は着々と進んでいたということを観客に教えてくれる。

 さて物語は。アメリカ人青年の刺殺体が発見された。殺されたのはパイル(ブレンダン・フレイザー、「ハムナプトラ」のときと比べて太ったから、最初わからなかった)。事情聴取に呼ばれたファウラー(マイケル・ケイン、現役記者にしてはちょっと老けすぎじゃないかな)は、「彼のことは何も知らない」と警察に答える。そして物語はファウラーの回想へと……。

 イギリスからやって来た初老の新聞特派員ファウラーは、自分の娘ほども若いベトナム女性フォングを愛人にしていた。本国の妻はカトリックゆえに離婚に応じてくれない。イギリスからは召還命令が来て、彼はベトナムを離れなければならないのだが、フォングへの未練断ちがたく、なんとかしてベトナム滞在を延ばそうと、北部への取材旅行にでかけるのだった。
 そんな折に知り合った国際医療救助を仕事とする青年医師パイルがフォングに横恋慕し、ファウラーの目の前で彼女に求婚するというややこしい事態に。フォングを挟んだ三角関係は緊張するが、いっぽうでファウラーとパイルは友情を結ぶようになる。ところがこのパイルというアメリカ人医師、なんだか怪しい。とっても怪しい……

 恋と政治を描くドラマというのはわたしの大好きなジャンルなんだけど、初老の男の若い女への執着というものが理解できないと、なかなかこの恋愛物語には入っていけない。わたしはその部分で感情同化しそこねてしまった。これがこの映画をあまり評価できない第一の原因。たぶん、「若くて美しいベトナム女性」という設定のフォングがあんまり美しく見えないのも一因だろう。

 それに、謎が謎を呼ぶサスペンスかと思いきや、別にこれといったどんでん返しや秘密があるわけではない。パイルが怪しいということは冒頭の場面で観客に見せてしまっているから、特別に入り組んだ裏を見せないと、今時の観客には「なぁんだ」と思われてしまう。

 アメリカがベトナム戦争に介入していく前夜の政治情勢がわかることは興味深いし、こういう映画を今見ると、ベトナム戦争イラク戦争アメリカにとっては同じ論理で始まっている、とつくづく思う。だが、三角関係にしても政治サスペンスにしても中途半端で、凡庸だ。ちょっと期待はずれ。「愛の落日」というタイトルで恋愛ものを想像させようとしたようだが、このタイトルがピントはずれなのだ。DVDになって「クワイエット・アメリカン」という副題(これが原題)がついたが、「おとなしいアメリカ人」というタイトルでよかったんじゃないか。

 爆弾テロの悲惨な場面とか、かなりショッキングな描写もあり、「アメリカが平和をもたらす」という思い上がりへの批判など、見せるものはあるので、お暇ならどうぞ。(レンタルDVD)

THE QUIET AMERICAN
制作年 : 2002
上映時間:101分
制作国:アメリカ合衆国
監督: フィリップ・ノイス
製作: スタファン・アーレンベルグほか
製作総指揮: モリッツ・ボーマン
         アンソニー・ミンゲラ
         シドニー・ポラックほか
原作: グレアム・グリーン『おとなしいアメリカ人』
脚本: クリストファー・ハンプトン
    ロバート・シェンカン
音楽: クレイグ・アームストロング  
出演: マイケル・ケイン
    ブレンダン・フレイザー
    ドー・ハイ・イエン
    レイド・セルベッジア
    ツィ・マー
    ロバート・スタントン
    ホームズ・オズボーン