吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

はじまりへの旅

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 エコロジカル左翼一家の爆笑生活ぶりを本気なのか皮肉なのか、ものすごくまじめに面白く描いた作品。最初のうち、これはもうコメディに違いないと思い込んでいたんだけれど、案外本気なのかもしれないと思い始め、最後のまとめ方にはなかなかの清々しさを感じることができた。今年のベスト10に入るでしょう。
 森の中で一家7人がサバイバル生活をしている様子は、「この人たち、野人ですか」と言いたくなるような一種独特の笑劇ぶりだ。しかしこれは大まじめなのである。父親役がヴィゴ・モーテンセンだから、そのストイックな風情がよく似合っているうえに、結構怖い。家長としての威厳がある。森に住む父と子ども6人の家族は資本主義を否定し、天然自然の狩猟採集生活で食糧を得ている。毎日朝から夕方まで野を駆け、山を登り、絶壁に這いつくばる猛烈なトレーニングを欠かさない。そして夜は読書三昧。子どもたちは誰も学校に行っていないが、インテリ左翼の父の教育のおかげで全員が博学多才である。では母は? この家族に母はいない。つい昨日、亡くなってしまったのだ。葬儀がこれから行われる。精神を患っていた母が亡くなり、仏教徒だった母があろうことかキリスト教会で葬式を挙げられることになった。いざ、母の遺体を奪還に行こう! 一家全員が自家用バスに乗って山を下りることになった。さあここからが変人一家のロードムービーの始まりである。 
 子どもたちがノーム・チョムスキーの誕生日を祝って「チョムスキーおじさん、おめでとう」と歌って踊るシーンなんてほとんどチョムスキーをバカにしているとしか思えないのだが、これが本気でやっているというのだから恐れ入る。監督自身がチョムスキーのファンなのだそうだ。こんな冒涜、許されるのかね(笑)。「僕はトロツキー主義者(トロツキストと呼ぶな!)」「毛沢東主義者だ」というセリフが飛び交う家族の会話がいみじくも表しているように、この一家は毛沢東も脱帽の家父長的社会主義を実践している。こういう映画を見ると、トロツキストリバタリアンの親和性が高いことがよくわかる。父親の偏向教育に子どもたちが唯々諾々と従っているのが不思議でたまらないが、さすがに6人も子どもがいると、一人ぐらいは反抗する者が出てくる。それでなくちゃ。中二病っぽい次男坊が父に歯向かうのはある意味健全なことだ。
 ヴィゴ父が語る文明批判は至極まっとうなものであり、いちいち納得しそうになってしまうのだが、「ちょっとまて」とわたしは画面に突っ込みを容れたくなった。案の定、妻の両親との葛藤や子ども自身の将来願望などがヴィゴ父の行く手を阻む。やがて自分の主義主張や信念を貫き通すことが子ども自身のためにならないと悟った後の父の行動もまたよかった。
 躍動感あふれる演出といい、ヴィゴの好感度の高い熱演ぶりといい、子どもたちの愛らしさも音楽もよくて、今年のお気に入りの一作だ。

CAPTAIN FANTASTIC
119分、アメリカ、2016
監督・脚本:マット・ロス、音楽:アレックス・ソマーズ
出演:ヴィゴ・モーテンセンフランク・ランジェラ、キャスリン・ハーン、スティーヴ・ザーンジョージ・マッケイ、サマンサ・イズラー