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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

最終目的地

 年末年始怒涛の映画評マラソン何本書けるかシリーズ第3弾は、文芸作品。
 わたしは見始めてすぐに原作は小説に違いない、それも心理描写をこと細かく描いたものに相違なかろうと想像した。残念ながら、この手の作品は小説世界であるならば饒舌に登場人物の心理の襞を描き、彼らの葛藤と内面の変化を読者に示してくれるのだが、映像ではその描写が独りよがりであったり上滑りであったりする。真剣な場面のはずがなぜか失笑を誘うような恥ずかしいシーンであったりするのはどうしたものか。

 物語は、小説を一作だけ発表して自殺した作家の伝記を書きたいと、その作家の遺族たちが住むウルグアイへやってくるイラン系アメリカ人を主人公とする。作家の遺族たちは彼が遺した広大な屋敷に妻と愛人とその娘が一緒に住んでおり、近くには作家の兄とその同性愛のパートナーがいる。奇妙な人間関係を形成している彼らのもとにやってきたイラン系アメリカ人は若き文学研究者のオマー・メトワリー。

 作家の両親はナチスの迫害を逃れて南米へ亡命したドイツ人。作家の妻はイギリス人で、愛人はフランス人、作家の兄のパートナーは日本人という国際色豊かな一家の中に飛び込んでくる伝記作家たる主人公がイラン系のアメリカ人という多文化共生主義の見本市みたいな設定。しかしその設定がうまく噛み合ってカオスな世界の捩れを描くのかと思いきや、脚本が悪いのか、いちいち噛み合わない台詞が続くばかりで、映画内リアリティを感じることができない。そもそも恋人がいるオマーが、亡き作家の愛人で子持ちの女性に強く惹かれるという展開に説得力が無い。だって愛人がシャルロット・ゲンズブールなんですもの。あんな女のどこがいいのか、と思ってしまう。これは楚々として清清しい女性であったり、可愛らしく明るい女性であったりと、強く男心を揺さぶるであろう存在でなければ映画的には説得力がない。ミスキャストである。

 この映画で唯一強く印象に残ったのはローラ・リニーの凛とした美しさ。作家とその妻である彼女との絆は不思議なものがある。愛人を家に入れて妻妾同衾するのみならず、作家が自殺した後も8年間も妻妾が一緒に暮らし続けるという理解しがたい関係が、映画の中でもうまく消化しきれていなかった。作家の死後、彼らの人間関係には変化がなく、時が止まったかのように誰もが南米のジャングルの中に囚われて生きていた、その静かな停滞が何のメタファーであるのか、この映画からは読み取れない。これは映画の責任なのか、わたしに読み取る力がないだけなのかよくわからない。 

 人間関係が沈殿したままの家族のなかに闖入してきたオマーが彼らの止まった時計を動かす。その醍醐味があまり感じられない残念な作品であった。

THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION
117分,アメリカ,2009
監督: ジェームズ・アイヴォリー、製作: ポール・ブラッドリー、ピエール・プロネル、製作総指揮: アショク・アムリトラジ、原作: ピーター・キャメロン、脚本: ルース・プラワー・ジャブヴァーラ、撮影: ハビエル・アギーレサロベ、音楽: ホルヘ・ドレクスレル
出演: アンソニー・ホプキンスローラ・リニーシャルロット・ゲンズブール、ノルマ・アレアンドロ、アレクサンドラ・マリア・ララ、オマー・メトワリー、真田広之