吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ダーク・シャドウ

 先週は井上玲子ちゃんが亡くなり、気持ちが落ち込んでいた(短い追悼文をエル・ライブラリーのブログに書いた)。今月初めに観た「ダーク・シャドウ」なんていうコメディ映画の感想をアップする気にもなれなかったが、よく考えてみたらこの映画はコメディだけれど死の影が付きまとう、タイトルどおり暗い映画だった。
 予告編ではコメディタッチの部分が強調されていたが、思いのほか暗くて怖い映画だったので驚いた。そのあたりはやっぱりティム・バートン。で、物語は…

 200年間棺桶に閉じ込められていたバンパイアが1972年に蘇ってみたら、子孫は廃墟寸前の屋敷に細々と住んでいた。バンパイア=バーナバス・コリンズは一族の繁栄を取り戻すためにライバル会社を追い落とし一族の稼業復興を計画するが…。というストーリー。そのライバル会社の社長というのが実は魔女アンジェリーク(エヴァ・グリーン)で、彼女こそがバーナバスに振られた腹いせに彼に呪いをかけてバンパイアに変身させ、棺桶に閉じ込めて葬った張本人だった。
 映画の舞台を1972年にしたのはティム・バートンの趣味の表れ。よっぽどこの時代に郷愁があるのか、懐かしいヒット曲ばかりが大音響で流れてくるので、わたしも感激。ティム・バートンとわたしは同い年なので、琴線に触れる曲が同じというのも納得だ。ベトナム戦争がらみの政治ネタのブラックユーモぶりも笑えた。

 愛する人を殺された恨みつらみのバンパイアやら、母を喪い母の亡霊とともに暮らす孤独な少年や、愛の裏返しである憎悪を200年間も抱き続けた魔女やら、美貌が歳とともに失われて行くことに耐えられないアルコール依存症の精神分析医やら、反抗期の娘やら、この映画の登場人物たちのすべてが満たされず、常に何かに飢えている。彼らは近代的人間の典型ともいえよう。富や愛や権力に飢えて満たされず、心を病んでいく。その病的な世界を暗く描くティム・バートンの演出は、途中からコメディに変転し、最後は可愛そうな魔女への同情心に包まれて終わる。感情の起伏が激しい映画だ。

 ティム・バートンジョニー・デップは既に8作もの作品で一緒に仕事をしているのだが、なんといっても名作は「シザーハンズ」だった。今回の「ダーク・シャドウ」も悪くはないけど、物語に奥深さがない。せいぜい、魔女も実は身分違いの愛に殉じた悲しい女だった、というあたりがほろりとさせる程度。全体としては突き抜けたものを感じさせない凡庸な作りであるが、最後まで退屈はしない。

 この映画の意外なキーパーソンはいつも酔っ払っている精神分析医ホフマン博士だろう。演じているのはティム・バートンのパートナー、ヘレナ・ボナム=カーター。そのえぐい70年代風化粧を見ていると、「マーズ・アタック」(1996年)のときのリサ・マリー(当時、ティム・バートンの妻)を思い出す。バートン監督は自分のつれあいに同じような化粧をさせたがるのだろうか、と邪推。


 まー、それにしてもエヴァ・グリーンの魔女ぶりはなかなかよかった。おどろおどろしさも妖艶さも、何よりも最後に見せる骨なし人間もどきの身体の柔らかさ(!)も魔女らしいえぐみに充ち満ちていて、引きつり笑いしそうな場面炸裂であった。


 この映画では18世紀の人間であるバンパイア=バーナバス・コリンズのしゃべる言葉がやたら古めかしい。英語を聞いてもよくわからないわたしは、字幕がえらく時代がかっているので「ほんまにこんな古臭い英語をしゃべっているのかなぁ」とぼーっと見ていた。京都府立大学の英語学の先生である山口美千代さんによれば、やはり擬古文調でしゃべっていたそうだし、
「興味深かったのがジョニデ吸血鬼@18世紀半ばイングランド出身のoftenの発音。/t/を発音していました」とのこと。詳細は山口先生のブログをご覧ください。映画がいっそう面白くなること請け合い! http://d.hatena.ne.jp/myama-kpu/20120603

DARK SHADOWS
113分、アメリカ、2012
監督: ティム・バートン、製作: リチャード・D・ザナックほか、製作総指揮: クリス・レベンゾンほか、脚本: セス・グレアム=スミス、オリジナル脚本: ダン・カーティス、音楽: ダニー・エルフマン
出演: ジョニー・デップミシェル・ファイファー、ヘレナ・ボナム=カーター、エヴァ・グリーン、ジャッキー・アール・ヘイリークロエ・グレース・モレッツベラ・ヒースコートアリス・クーパー