吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

時をかける少女

 原作未読、オリジナル映画も未見なので、これが「時かけ」初体験。この明るさ、屈託のなさ、そして切なさ。これぞ青春映画だ。なんのはずみかタイムリープできる能力を持ってしまった高校生の真琴という元気な女の子が、その不思議な能力を使って自分のちょっとした失敗をなかったことにしてしまう。タイムリープできるからといってその力をなにかたいそうなことに使うとか歴史的事件をひっくり返そうなんて考えないところが現代っ子か。楽しいことがあれば永遠にそれを続かせようとし、テストの点が悪ければなかったことにしてしまおうとする。

 女子高校生だけれど野球が大好きで、仲良し男子高校生二人といつも三人一緒にキャッチボールしている、なんていう風景もいかにも青春していて懐かしい。あらっぽい線の人物と、爽やかで細かい描き込みの背景のバランスの妙もなんともいえず、声優たちの声の自然な感じも好印象だ。原作はかなり古いのだけれど、設定は完全に現代に移し変えられている。

 このアニメに描かれたタイムリープとタイムバラドクスは、「いつまでも友達でいたい」という少女らしい願望をそのまま永遠に凍りつかせたいという誰もが青春の一時期に抱きそうな思いを思い出させる。と同時に、さまざまな失敗や後悔をリセットしてしまいたいという願望を素直に実行に移して好き放題する真琴が羨ましくもあり呆れもする。そう、なんでもリセット。友達の気持ちまでリセットしてしまう真琴は、やがて自分が大切なものを毀損していることに気付くのだ。

 大切な友達の命の危機を目前にしながら自分のリープ能力を使い果たしてしまった真琴は、絶望にくれる。そんな彼女が自分の恋心に気付いたとき…。

 あれもなかったことにしたい、これもなかったことにしたい。これさえなければ、こんなことをしなければ。そう思う気持ちは誰もが持つだろう、でも、そうやって永遠に責任を回避していくことが「正しい」のだろうか? どんなに後悔しても後戻りはできない。人生は一回きり、決して後戻りもリセットもできないからこそ貴重なのではなかろうか。わたしは自分の過去をリセットすることを潔しとしない。どんなこともそれは引き受けていかねばならないことだろう。臍をかむ想いでもやっぱり引き受けて生きていくしかない。

 「時よ止まれ、君は美しい」はミュンヘン・オリンピックのキャッチコピーだったが、この映画はまさに一瞬の時を永遠に閉じこめたい青春の切なさを描いた秀作だ。(レンタルDVD)

                                • -

日本、2006年、上映時間 100分
監督: 細田守、アニメーション制作: マッドハウス、原作: 筒井康隆、脚本: 奥寺佐渡子、音楽: 吉田潔
声の出演: 仲里依紗石田卓也、板倉光隆、原沙知絵