吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち

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 これは楽しい。三部作の第2作なので、第1作を見ていないことが返す返すも悔しいけれど、この第2作だけ見ても十分ストーリーは理解できる。仕事にあぶれた研究者たちが犯罪に手を染めて、その犯罪歴を帳消しにしてもらうために警察に協力する、というお話。まあ、荒唐無稽な設定ではあるけれど、これがイタリアの現実を反映した風刺であるというところが肝胆を寒からしめる点だ。
 日本でも「高学歴ワーキングプア」という言葉が人口に膾炙して既に10年が過ぎているが、イタリアでは該当する人たちがどんどん海外に流出しているという。そういう状況を巧みに盛り込んで思い切り笑わせてくれる本作は、なかなか考えさせられるつくりになっている。
 マッドサイエンティストならぬ、天才的な化学者はドラッグの分析に余念がなく、一度は自分たちを捕まえた警察に手を貸している。しかし、この事件は理系学者だけが居ればなんとかなるだろうと思わせるのに、なんと考古学者とかラテン語碑銘学者とか記号学者とかの文系も大活躍。やっぱり世の中ちゃんと動かすためには哲学や歴史学が必要なんだよ! この監督は実によくわかってらっしゃる。偉い!
 超合法ドラッグ「スマート・ドラッグ」の取り締まりを通じて手柄を立てたいという出世欲ギラギラの美しい警部がまた度を越していて、これまた笑いのツボ。
 笑えればなんでもいいということなのか、ナチスのクラシックサイドカーまで登場し、最後は見事な列車アクションシーンでド爆笑。ハラハラドキドキと爆笑を繰り返しつつ、物語は第三部へ。第三部も絶対見るよ。せっかくだから劇場公開されていない第1作も上映してほしいなぁ。

SMETTO QUANDO VOGLIO: MASTERCLASS
119分、イタリア、2017
監督:シドニー・シビリア、脚本:シドニー・シビリアフランチェスカ・マニエーリ、ルイジ・ディ・カプア、音楽:ミケーレ・ブラガ
出演:エドアルド・レオ、グレタ・スカラーノ、ヴァレリア・ソラリーノ、ヴァレリオ・アプレア、ルイジ・ロ・カーショ

アバウト・タイム ~愛おしい時間について~

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 ちょっと変わったタイムスリップもの。といっても、行けるのは過去だけで未来は無理。自分の経験がたどれるだけで、他人のは不可能なので過去に行ってヒトラーを暗殺できない。

 で、何がいいかというと失敗を全部やりなおせるってことと、同じ本を何度も読めること!! なんじゃーそれ。タイムトラベルができるなら、もっと大胆にいろんなことができそうなのに、わりとちまちましたことにしか使わないっていうところが主人公一家の節度のあるところなのかな。この一家は代々の男たちがタイムトラベルできるという能力を持っているのだ。それを21歳の誕生日に父から知らされたティムは、早速その力を使って素敵な恋人を得ようと頑張ってみるのだが。。。。
 主人公ティムが全然すかっとしてないところがいいね。でもわたしの好みのタイプじゃないし、なんだか頼りないしいまいち。そんな男でも過去に戻ればいろいろとやりたい放題できるんだよ、というところか。これは完全に男の子の願望物語。
 人間はいつだって生き直せるしやり直すことは可能だと思うけれど、それは未来に向かってであって、過去を書き直してしまうなんて、それは得手勝手というもの。それではきっと人生は楽しくないとわたしは思う。いろんなことに悩み後悔し地団太を踏んだり自分を恨んだりするからこそ醍醐味があるというもの。そんな簡単にやり直せるなら、一期一会の感動がないやんか!
 で、どんなに過去に戻れたって、人間の寿命を変えることはできないし、変えられない過去だってある。変えてはいけない過去もある。さてどうすればいいのか。ティムは悩む。素敵な恋人を得て幸せに生きていたって、すべてが手に入るわけではないと彼は気づく。ここがよかったね。
 しかしわたしが不思議に思ったのは、一族の男がみんな過去に戻って事実を修正できるなら、全員が同じように過去を変えまくったらいったいどうなるのか? 輻輳した過去はいったいどうなるんだろう。最後はしみじみして終わったからよかったけれど、最初のうちはどうなることかと心配になるような作品だった。

 ティムの妹の「キットカット」!(こんな名前、あるの?) この変人キャラが最高によかった。(レンタルDVD)

ABOUT TIME
124分、イギリス、2013
製作総指揮・監督・脚本:リチャード・カーティス、音楽:ニック・レアード=クロウズ
出演:ドーナル・グリーソン、レイチェル・マクアダムスビル・ナイトム・ホランダーマーゴット・ロビー、リンゼイ・ダンカン

ゲティ家の身代金

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 大学院の授業の折に、INUE先生がヨーロピアナの解説をされていて、「ゲティ財団のおかげでヨーロピアナで日本の著作者を日本語で検索できる」とおっしゃった。その言葉聞いた瞬間に映画マニアの社会人院生IMNさんが目を輝かせて、「それはひょっとして『ゲティ家の身代金』のゲティ財団でしょうか」と口走った。
 などということを思い出しながら見ておりました、本作は予想以上に面白かった。さすがはリドリー・スコット監督、絶対に観客を飽きさせない引き締まった演出。
 実話ベースと言いながらどこまでが本当なのかよくわからないなあと油断しないように見ていたのだが、世界一の大金持ち、ジャン・ポール・ゲティ爺さんの吝嗇ぶりに驚く。誘拐された孫の身代金1700万ドルは確かにはした金ではないが、かといってゲティ爺さんになら楽に払える金額なのに、一銭も払わないと主張する。孫の母親、つまり自分の息子の元妻が懇願しても聞く耳を持たない。誘拐されたポールの母親ゲイルは毅然とした態度を貫き、取り乱したりすることなくマスコミの前でも振る舞う。守銭奴ゲティとの対比もわかりやすく、興味深い人間模様が描かれている。主な登場人物であるゲティ、ゲイル、さらにはゲティに雇われた元CIA職員のチェイス。この三人がそれぞれに個性が際立ち、演じている役者もみなうまいため、見ごたえあるサスペンスが成立している。わたし自身は1973年に起きたこの事件のことを全くと言っていいほど覚えていなかったので、結末も知らずに見ていたから余計に手に汗握った。
 ポールの世話をする小汚い小悪党がロマン・デュリスに似ているなぁと思っていたら、本人だった。すっかりおじさん化しているが、憎めないおいしい役をもらっている。役者が皆、よい味を出しているのもリドリー・スコット監督の手腕であろう。この作品がいくつもの映画賞の候補になったのも頷ける出来。身代金の値下げ交渉やゲティの貪欲ぶり、ゲイルの勇気と機転、といったエピソードの数々がまとまりよくつながっていて、見ごたえある一作になっている。ローマやイギリスの邸宅、街並みといった歴史を感じさせる風景も見どころの一つであり、音楽や美術作品の数々も素晴らしい。博物館・美術館が登場するからミュージアム映画の一つとも言える。
「当初ジャン・ポール・ゲティ役だったケヴィン・スペイシーが作品完成後にスキャンダルで降板となり、急遽クリストファー・プラマーが代役に起用され、限られたわずかな期間での再撮影を敢行、最終的にはアカデミー賞ゴールデン・グローブ賞にノミネートされる前代未聞の快挙でも大きな話題となった」という解説を読んでびっくり。よくぞそんなことができたもんだ。そうなると、お蔵入りになったケヴィン・スペイシーの特殊メイクによるゲティの姿も見てみたいと渇望してしまう。DVDリリースの特典映像に入れたら売れるんじゃないかな。 
 拝金主義者に見せたい映画です。

ALL THE MONEY IN THE WORLD
133分、アメリカ、2017

監督:リドリー・スコット、製作:クリス・クラークほか、原作:ジョン・ピアソン、脚本:デヴィッド・スカルパ、撮影:ダリウス・ウォルスキー、音楽:ダニエル・ペンバートン
出演:ミシェル・ウィリアムズクリストファー・プラマーマーク・ウォールバーグ、チャーリー・プラマー、ロマン・デュリスティモシー・ハットン

セトウツミ

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 究極の脱力系コメディ。よくぞこんな作品を映画にしたもんだ。これ、お金払って劇場で見てたら怒るよね、ほんま。でも面白い。音楽がタンゴ、というところも人を食ったみたいで良い。
 高校生が二人、暇を持て余して放課後の河原に座ってああでもないこうでもない、とどうでもいい話を延々繰り返す。それだけの話。製作費はほとんどかかっていない。ロケ地も河原からほとんど変化しない。もう映画と言うよりは舞台劇かテレビドラマの世界。上映時間も短いしね。芝居と言うよりもコントみたいな漫才みたいな。ほとんどが「間(ま)」のとり方の絶妙さで成り立っている会話劇だ。大阪弁に親しみのない人にはちょっとしんどいかもしれない。
 この年頃の男の子たちの生態がよくわかって、また同じ学校に通いながらも成績格差や貧富の格差が歴然とあるという意外性も面白く、どうでもいい会話から家庭問題が見えてくる脚本もなかなかうまい。なによりも主役二人がほんとうにうまい。菅田将暉がうちのY太郎の高校生の頃にそっくりなので笑ってしまった。個人的にはとても受けたので、高得点。主人公二人の苗字がセトとウツミなんだけど、二人合わせて瀬戸内海だってこと、今頃気づいたよ。(U-NEXT)

75分、日本、2016
監督:大森立嗣、製作:橋本太郎、原作:此元和津也、脚色:宮崎大、大森立嗣、音楽:平本正宏
出演:池松壮亮菅田将暉中条あやみ鈴木卓爾、成田瑛基、岡山天音

あの日 あの時 愛の記憶

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 アウシュヴィッツで出会ったポーランド政治犯の男とドイツ系ユダヤ人の女。男はどういうわけか収容所内でカポのような役目を担っていたのか、ドイツ兵に賄賂をわたし、それなりの厚遇を得ることができていた。男女が別々に収容されているはずの収容所内で二人は密会し、愛し合い、女は妊娠する。やがて二人は命がけで収容所を脱出する。1944年のアウシュヴィッツのハンナは虐げられている囚人とは思えないほどの色香がある。
 この脱出劇がたいそう緊迫感に満ちている。物語は現在のニューヨークに住むハンナと過去のハンナとのカットバックで進み、二人が無事に脱出できたことは観客も知っているのにもかかわらず、手に汗握ってしまう。そしてそんな二人が生き別れになり、互いが死んだと思い込んで30年が過ぎていた。
 この30年はハンナにとってどんな年月だったのだろう。優しい夫と愛し合い、娘も授かったというのに、そして、夫は成功した研究者として表彰されたというのに、その祝賀パーティを自宅で開いているその夜に、ハンナは気もそぞろになってかつての恋人の行方を必死に探る。それは、どうしても会わねばならない恋人だったのだ。どうしても決着をつけねばならない愛だったのだ。極限状態で芽生えた愛は、死と隣り合わせの瞬間を共有し、刹那の愛欲に溺れためくるめく記憶を共にした稀有なものとして、彼女の核の中に深く浸染していた。
 これが40年後や50年後ならどうなっていただろう。二人は30年後に再会する。そのあまりにもあっけないラストシーンが深い余韻に満たされて、言葉にできない30数年の思いをハンナの視線に語らせていた。こんな実話があったなんて、奇跡のようだ。愛はいつも奇跡を生む。愛する人を生き延びさせたいと思う気持ちが彼女を救い、その想いを受け止めた女は30年経っても男を捜す。
 戦争の傷は時と共に癒えるものではない、とわたしの友人の医者が語っていた。老人病院の入院患者は、死を間際にして戦場の記憶にさいなまれ、悪夢にうなされ、時にいきなり戦場での残虐行為の懺悔を始めたりしたという。
 これもまた静かな反戦映画だ。そして、愛の記憶が人を突き動かすことを、思いもかけぬ行動へと走らせ、そしておそらくその後の人生に大きな意味を投げかけることを教えてくれた。(レンタルDVD)

DIE VERLORENE ZEIT
111分、ドイツ、2011
監督:アンナ・ジャスティス、脚本:パメラ・カッツ、音楽:ユリアン・マース,クリストフ・カイザー
出演:アリス・ドワイヤー、そのマテウス・ダミエッキ、ダグマー・マンツェル、レヒ・マツキェヴィッチュ、スザンヌ・ロタール、デヴィッド・ラッシュ

スリー・ビルボード

 もうすぐビデオリリースされるので、ぜひおすすめの一作を。今年は映画豊作年で、ナンバーワンと思う作品がすでに4作もあるよ! うれしいねー。

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 娘をレイプされ殺された母親が、捜査が進展しないことに業を煮やして国道沿いに3枚の看板(ビルボード)を出した。それは警察署長を名指しで批判するものだっただけに、田舎町に大きな波紋を投げかける。

  犯人への怒り、警察への怒り、娘へのやりきれない悲しみと自責の念、さまざまな複雑な感情を見事に演じきったフランシス・マクドーマンドの演技が絶賛に値する。そして彼女に負けず劣らず強烈な印象を残したのが、瞬間湯沸かし器のような暴力警官を演じたサム・ロックウェルだ。
 この作品に流れているものは「怒り」。誰もが怒り、暴力をふるい、人を脅し、傷つける。やがて被害者が加害者になり、加害者が被害者になり、ことの善悪が簡単には判断がつかない展開になる。そして怒りと悲しみ一色に彩られていた人々の心に、ある事件をきっかけに変化が訪れる。
 話がどう転がるのか全然予測がつかないだけに、この映画は事前情報なしで見るのがお薦め。見終わった後に、必ず誰かと語り合いたくなる映画だ。
 物語の先が読めない理由は、登場人物たちが大きな感情に揺さぶられて動くからだ。理知的な行動をとる人間が皆無で、その場その場の感情の揺れ動くままに次の一手を打ってしまうために、観客は肩透かしをくらう。と同時に、いい意味でも裏切られていく。社会的差別はさまざまに偏在し、被害・加害と差別・被差別を複雑に編み込んでいく。
 理知的な行動をとる人間がいないと書いたが、それを描く脚本は実に理知的だ。人というものを一つの枠に当てはめたりしない人間観が素晴らしい。
 ラストシーン、新たな「共犯者」たちの行方を占うロードムービーがもう一本作れそうだ。2時間があっという間の、練り込まれた脚本に脱帽。

THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI
116分、イギリス/アメリカ、その2017
監督・脚本:マーティン・マクドナー、製作:グレアム・ブロードベントほか、撮影:ベン・デイヴィス、音楽:カーター・バーウェル
出演:フランシス・マクドーマンドウディ・ハレルソンサム・ロックウェルアビー・コーニッシュジョン・ホークス

Re:LIFE~リライフ~

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 若くして大ヒット作を書き、アカデミー賞も受賞した脚本家が、その後15年も鳴かず飛ばずでついに田舎大学の脚本コースの教師になる、というお話。くたびれたやる気のない中年大学教員をヒュー・グラントがまさに適役!って感じで楽しく演じている。 

 主人公キースは赴任するなり、大学に出校する前日には既に女子学生をお持ち帰り。んで、「教師っていいなぁ」とつぶやいているスケベな中年。受講生は顔で選び、開講するなり1か月休講。赴任したばかりの懇親会で同僚女性教師にからんでセクハラ認定を受けるなど、とかくやる気のなさが顔面からにじみ出る。
 ところが、いやいや始めた講義でついつい熱っぽく脚本について語ってしまい、どういうわけか才能ある学生もいて、教師としての楽しさに目覚めてしまうキースであった。しかし、学生との情事が査問にかけられることになり。。。。
 というコメディ。脚本がいい。社会人学生を演じたマリサ・トメイが明るく前向きないい味を出しているので、大人の鑑賞に堪える楽しい話に出来上がっている。ヒュー・グラントも単なるやる気のない助べえかと思ったが、案外いい男であることがわかったし。それに半端ない教養の持ち主であることも魅力的だ。J・k・シモンズの学科長も涙もろくていい親爺さん。こういう、心底の悪役が出てこない映画というのは気持ちがいい。
 人生のやり直しと言うのは決して栄光の日々よ再び、というアグレッシブな事象ばかりではない。本作が意外にアンチハリウッド的だったのもよかった。バックステージものとしてもチラリとハリウッドの脚本システムが見え隠れする部分に興味津々。とりわけ21世紀になって以来の、「強い女を登場させろ」というスタジオ側の圧力に抵抗するあたりが笑えた。フェミストへの意趣返しも興味深く、ハリウッドのミソジニーが垣間見えて個人的には大変楽しめた一作。(レンタルDVD)

THE REWRITE
107分、アメリカ、2014
監督・脚本:マーク・ローレンス、製作:マーティン・シェイファー、リズ・グロッツァー、音楽:クライド・ローレンス
出演:ヒュー・グラントマリサ・トメイベラ・ヒースコート、J・K・シモンズ、クリス・エリオット、アリソン・ジャネイ