吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2023年のベストシネマ

 いよいよ明日(3月8日)は日本アカデミー賞の授賞式、そして10日は本家アメリカの授賞式というタイミングでようやくわたしもマイベストを選んでみた。ベストを選ぶほど映画を見ていないのにおこがましいことこの上ないけど、いちおう…… 

 2023年は映画館で32本しか見ていないことが判明した。衝撃である。去年も衝撃を受けたが、2023年はさらに劇場鑑賞の頻度が下がったので、新作をほとんど映画館で見ていないことになる。悲しい。97作を配信やDVDで見たので、合計は129本となる。配信で見た作品はiPadで見たのがほとんどなので、小刻みに見ていることが多く、映画鑑賞としてはまったくよろしくない。だから印象に残りにくく、体調がすぐれないときに寝ながら見たのなんか、さっぱり内容を覚えていない。

 それでもいちおう復習してみて、何がお気に入りだったのかを思い出してみた。で、適宜選んだらこうなった。 

◆ベスト作品(劇場で見たのは☆をつけた)

福田村事件 ☆
ザリガニの鳴くところ
ヒトラーのための虐殺会議 ☆
せかいのおきく ☆
エノーラ・ホームズの事件簿1、2
ノートルダム 炎の大聖堂 ☆
ハケンアニメ!
翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~ ⭐︎
TAR/ター
◆強く印象に残った作品(順不同)
99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE
PERFECT DAYS ☆
The Son/息子 ☆
アルピニスト
ゴジラ-1.0  ☆
ザ・クリエイター/創造者 ☆
ドミノ ☆
うつろいの時をまとう
モリコーネ 映画が恋した音楽家
ワタシタチハニンゲンダ!
最悪な子どもたち
明日に向かって笑え!
 

 上記の作品については、その感想を日付を遡ってようやくすべて投稿し終わった。ほかにも「これはなかなか面白い」と思う作品については頑張って遡及入力することとする。今年こそもっと映画館で映画を見たいものだ。

エクスペンダブルズ ニューブラッド

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 10年ぶりのシリーズ新作、第4弾。

 第1作は脳みそを1ミリも使わない作品で途中退屈してしまったが、続編はひねりもあり、多少は頭脳も使っている形跡があったので面白く見ることができた。で、もう終わりやんねと思ったら第3作まであって、それはまたまた脳みそ不要の内容だったが、その代わりに驚異のバイクスタントで度肝を抜かれたものだ。それから10年、まさかまさかの続編。って、エクスペンダブルズ(消耗品)と自称する傭兵たちもすっかり年老いているはず。いったいどうやって映画にするんだろ?

 などというのは要らぬ心配であった。巻頭いきなりの爆裂!砲弾!爆走! いやもうこれだけ火薬使ったら火薬メーカーの売り上げに貢献できたでしょ。しかし戦車や軍用トラックが炸裂して飛び跳ねるこの場面は現実世界の戦争を想起させて、つらいものがある。こういうアクションは映画の中だけにしよう。

 バーニー(シルベスター・スタローン)が率いるエクスペンダブルズは今やすっかり老兵軍団となった。ドルフ・ラングレンの老けぶりには驚いたが、老眼なので標的を外してしまうあたりの悲哀がまた笑いを誘うネタになっているのも面白い。

 今回のエクスペンダブルズはこれまでとかなり作風が異なっている。情緒に訴える場面が多くて、なによりも巻頭まもなくバーニーが殉死してしまうのが衝撃だ。だから本作はバーニーの弔い合戦でもあるわけで、なにかというとクリスマス(ジェイソン・ステイサム)が「バーニーの仇を」みたいにしみじみするのが感慨深い。仲間の結束や友情も篤く、第1作のおちゃらけが減っている。とはいえ、笑える場面は随所に作ってある。第3作で新メンバーとして登場したアントニオ・バンデラスは今回は出てこないが、代わりに彼の息子が加わった。父親譲りのマシンガントークぶりを見せるのだが、父親が無意味におしゃべりだったのに比べると、息子の方はなにやら深遠なセリフを意味不明にまくしたてるところが見どころ。

 今回は船上バトルが展開し、狭い船の中でどうやってバイクアクションを見せるのかと思ったら、この狭さを逆手にとってスリル溢れるシーンが続く。驚異のバイク空中演技には、新体操かい!と突っ込みたくなる。身体はちぎれるわ、ぺしゃんこになるわで観客サービス精神にあふれまくって煮えたぎっているので、ぜひ劇場の大きなスクリーンで堪能されたい(R-15です)。

 アメリカ映画は核兵器の描写がずさんなのが伝統で、本作でもそこはどうしても気になるが、荒唐無稽な映画の中だからやむを得ないとしておこう。老人賛歌の映画が増えたものだが、ほんと戦場は映画の中だけにしてほしい。

2023
EXPEND4BLES
アメリカ  Color
監督:スコット・ウォー
出演:ジェイソン・ステイサム
50 Cent
ミーガン・フォックス
ドルフ・ラングレン
トニー・ジャー
イコ・ウワイス
ランディ・クートゥア
アンディ・ガルシア
シルヴェスター・スタローン

 

PERFECT DAYS

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  12月30日の3本立ての2本目。

 これはいかにもヴィム・ベンダースらしい作風だ。東京で一人暮らしをする慎ましい中高年男性の生活が淡々と繰り返されるだけ。それだけ。

 主人公の平山(小津安二郎の作品によく登場する人物名)は結婚もせず子どももおらず、アパートに一人で暮らし、公園のトイレを掃除する清掃の仕事に就いている。楽しみは銭湯で一風呂浴びてから地下鉄銀座線浅草地下街の居酒屋で一杯飲むこと。帰宅すれば文庫本などの本を読み、布団を敷いて寝る。朝は早くに起きて歯を磨き、缶コーヒーを自動販売機で購入したあと、自家用車(?)に乗って公園に行く。車内ではお気に入りの懐メロ(この洋楽が懐かしい!)をカセットテープで聞きながらコーヒーを飲む。仕事が終われば神社の境内(だったかな)のベンチに腰掛けて、コンビニのサンドイッチをほおばる。

 実に几帳面で無口で機嫌のいい毎日を過ごすこの男の生活の繰り返しが描かれるだけなのだが、この映画はすこぶる評判が良い。繰り返しの中にある小さな変化が見ていて楽しい。東京の公園トイレがこんなにおしゃれでカラフルだったとは初めて知った。あの地下鉄構内の飲み屋に行ってみたい。と思わせる魅力がある。

 清掃作業の仲間の若い男はいつもガールズバーの女に振られているのだが、平山はそんな彼を見て微笑んでいる。平山の過去は謎だし、行きつけのスナックのママとの距離感も微妙だ。

 何も起きない日常生活なのだが、そんな中にも時々起伏が合って、彼が表情を崩したり泣きそうになったり、という感情のせめぎあいが描かれる場面もある。後半では物語が少し動き始めるのだが、結局のところ何かが変わったとも思えない。

 このようにして人はひっそりと年老いていき、やがて消えてゆくのだろう。そう思わせる映画だった。ある程度以上の年齢の人間は泣けるほど感動するかもしれない。まさに完璧な映画とも言える。それだけに、あまりにも研ぎ澄まされたカメラワークや乱れのない演技、リアリティのない生活感にどこかしら不満を感じてしまうわたしは天邪鬼なのかもしれない。東京の街や平山の住居がきれいに撮られすぎていて、ちょっと違うと感じてしまったのだ。わざとらしいと言うか。

 ところで、わたしは冒頭に「結婚もせず子どももおらず」と書いたが、その言葉の裏にある価値観そのものが近代家族像を表象するものであり、一つの偏向を示しているということは21世紀の今や自明だと思いたい。

 閑話休題。平山はおそらく過去のいきさつから何かを自分に課していて、だからことさらに何もしゃべらず、ほとんど人と口を利かないのだろう。トイレ掃除という仕事に就いているのも訳あり感を醸し出している。このような人間観を現代の人々が是とするならば、この先あまり世の中はよくならないと感じた。つまり、変化を嫌い、人とのコミュニケーションを極力避ける修行僧のような世捨て人のような生活、これをみて感動しているうちは社会は変わらないだろう。でも、いい映画です(どっちやねん)。

2023
日本 / ドイツ  Color  124分
監督:ヴィム・ヴェンダース
製作:柳井康治
エグゼクティブプロデューサー:役所広司
脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
撮影:フランツ・ラスティグ
出演:役所広司 平山
柄本時生 タカシ
中野有紗 ニコ
アオイヤマダ アヤ
麻生祐未 ケイコ
石川さゆり ママ
田中泯 ホームレス
三浦友和 友山
研ナオコ
あがた森魚
松金よね子
安藤玉恵

翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~

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 12月30日に映画館で見た3本目。

 あまりにも面白いから疲れも落ちた。とはいえ、途中ちょっとだれた部分もあって。それは甲子園の地下工場(だったかな)の場面。ちょっとしつこかったな、これは。しかしその他はとても気持ちよくて、とりわけ大阪府知事が極悪非道な人間だったところが最高に面白かった。大阪府知事を演じた片岡愛之助がさすがは歌舞伎役者、腹の底から声が出ていて、そのいやらしさを満身から発しているのには感動した。「大阪都構想はあかんかったけど、万博はやらしてやぁ~」とドスの利いた声で見得を切るあたりは天晴なり! いや~、実に気持ちよかったわー、すっとした!

 それにしても前作に続いてこれでもかの悪乗りには爆笑に次ぐ爆笑。わたしの隣席に座っていた中年のおじさんはずぅ~っと笑いっぱなしで、あれだけ笑えたらチケット代も安いもんやで。

 あ、興奮してちゃんと映画のあらすじなどを書くのを忘れていたわ。劇場版パンフレットによれば、前作は「まさかの大ヒットを記録した」だけではなく、「第43回日本アカデミー賞ではなんと、最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀編集賞を含む最多12部門で賞を獲得!」したのだそうな。前作も劇場で鑑賞したわたしとしては快哉である。というわけで続編が満を持して作られた模様。しかも今回は舞台が関西で、いじられるのは滋賀県。うーむ、なんで滋賀県? 和歌山とかはあまりにも普通だから?(笑) 映画の公開に先立って主演の二階堂ふみと監督などが滋賀県知事への謝罪会見を行ったと、ネットニュースで読んだ。滋賀県の三日月知事は「なんで滋賀なんだ」と思ったらしいが(本心では奈良とか和歌山だろうと思っていたのでは?)、笑って謝罪を受け入れたとか。

 あ、まだあらすじを書いてなかった。てか、あらすじってあったっけ? 簡単な設定を述べると、和歌山は大阪の植民地で、大阪の残虐な支配にあって人々は苦しんでいた。大阪府知事の妻が神戸市長で、その浮気相手が京都市長。この3人が結託して滋賀、和歌山、奈良が非人道的な扱いを受けていたのだ。で、その和歌山とか滋賀県を解放する闘いが始まったのであった(なんで奈良はスルー?(笑))。ということが、のちの世に歴史として語られる、その物語を運転中の車内でラジオドラマとして聞いている埼玉の家族が感動のあまり涙している。というややこしい話。

 ここで特筆すべきは、極悪大阪府知事の妻の神戸市長が藤原紀香というところ。この映画でついに夫婦共演が実現したという二人が悪役で登場するわけだが、なんで夫婦初共演でこの映画を選ぶかな、出演料に目がくらんだか(笑)。最後の出身地対決では藤原紀香の「産地偽装」問題も暴露されて、爆笑のうえにも爆笑。

 さまざまな地域ディスりがあったなかで、わたしが一番笑ったのは、「古墳以外になんにもない堺」とか「関西最強軍団のいる岸和田(だんじり)」とか、滋賀のオスカルとか、枚挙にいとまがない。このあほらしい映画、次回作があるなら次も絶対に映画館で観たい!!

2023
日本  116分
監督:武内英樹
製作:大多亮ほか
原作:魔夜峰央 『翔んで埼玉』
脚本:徳永友一
撮影:谷川創平
音楽:Face 2 fAKE
主題歌:はなわ 『ニュー咲きほこれ埼玉』
出演:二階堂ふみGACKT、杏、加藤諒益若つばさ、堀田真由、和久井映見天童よしみ山村紅葉ハイヒールモモコ川崎麻世藤原紀香北村一輝片岡愛之助

TAR/ター

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 冒頭、ベルリンフィル史上初の首席女性指揮者となったリディア・TARがインタビューに答える長セリフの知的な緻密さにまずは圧倒される。淀みなく答えるTARを演じるケイト・ブランシェットの自信たっぷりで気高い美しさには惚れ惚れした。しかしここで字幕が男言葉である(ずっと最後まで男言葉)という設定にわたしは若干の違和感を持った。英語でしゃべっているのだから男女の違いはなさそうに思うのだが、日本語の話し言葉になるとどうしても性差が際立つ。TARは同性愛者であり、ベルリンフィルの首席バイオリニストと同性婚をしている、「夫」なのだ。いつも長身によく似合う高級パンツスーツに身を包んで金髪をなびかせている。そのあまりのかっこよさに鳥肌が立ちそうだ。しかしよく見ると、彼女はインタビューに答える間、しばしば左手で耳を触る。これが本作の伏線だったと後で気づく。

 前半は特に理屈っぽいセリフが多くてしかもしばしば長回しで撮られていたりするので、それらの場面の撮影は大変だったろう。そしてその画面の中心にいるケイト・ブランシェットが指揮者以外の何者にも見えない、見事な演技を見せてくれる。TARは天才の名を欲しいままにし、頂点に上り詰めた権威。マエストロと呼ばれることに慣れてしまった権力者だ。

 彼女はドイツのオケを指揮するのだから、当然にもドイツ語も操る。練習場面ではドイツ語と英語が入り乱れ、どちらもちゃんとオケのメンバーに伝わっているところがすごい。マーラー交響曲の録音がもうすぐ完成するとうところまでこぎつけた、最後は5番を吹き込む。映画では第4楽章が演奏され、リディアはヴィスコンティの名前を出してジョークでオケを笑わせる。「ベニスに死す」のおかげですっかりポピュラーになったあの第4楽章、でも字幕にはヴィスコンティの文字はなく、「映画の音楽とは別物と思え」というセリフになっていた。

 TARが次のチェロ奏者をオーディションする場面で、わたしはカラヤンを思い出した。カラヤンが若い愛人(と噂される女性クラリネット奏者)を抜擢したことにベルリンフィル内から批判があがっていたこと。そのザビーナ・マイヤー事件がモデルと思われることがこの映画でも描かれる。そのチェロ奏者の演奏がうますぎるのでどうやって撮影したんだろうと思っていたら、その奏者は本物の演奏家だとか。なるほど。

 物語が進むほどにTARは幻聴に悩まされるようになり、薬が手放せなくなる。やがて彼女の教え子が自殺し、原因がTARのパワハラだったとSNSで拡散される。さまざまなことが重なり、TARはベルリンフィルを放逐されることに。

 とまあ、権威の絶頂にあった高慢人間が落ちていく様子を描いた作品なので、後味は悪い。いったい何がいいたかったのかよくわからない映画だ。そもそもリディア・TARは女性だが、男と同じだ。家事育児にはほとんど携わらず、仕事漬け。浮気はするし、上昇志向が強くてパワハラ的な発言が後を絶たない。要するにいやなやつなのだ。

 映画の冒頭がスマホの画面というのも象徴的で、この映画ではTARの悪評はSNSを通じてあっという間に広がる。いつでもどこでも誰かが彼女の姿を録画していて、しかも悪意のある編集を行ってフェイク情報を拡散させている。

 この映画は監督も脚本もトッド・フィールドが行っている。彼の経歴に興味をそそられたのでWikipediaで調べてみたら、どうやら音楽教育を受けてきたようで、芸術学の修士号も持っている。

 この映画では、栄誉を失ったTARが恩師バーンスタインの若かりし頃のVHSビデオを見て涙を流すシーンが印象に残る。そこには音楽の本質を語る姿があったのだ。最後に流れ流れて彼女はアジアの奥地へ行く。そこで指揮する姿はいったい何のメタファーなのだろう? ラストシーンの意味がよくわからない。

 ところで、この映画で描かれた2つのことが引っかかる。

①「バッハは白人で20人の子どもを女たちに産ませたような人間だから、興味がない。音楽も聴かない」と言った男子学生(西アジア系か?)をTARが諭す場面。

②なぜTARが落ちぶれて流れ着く場所が東南アジアなのか

 

①は、セクハラ・パワハラをするような人間とその作品は別物、ということが言いたかったのか?

②は、落ちぶれた末路が「未開の、遅れた」アジア行きであるというアジア蔑視が表出しているのでは?

①ではジャニー喜多川を思い出す。「ジャニーは鬼畜だが、彼の手腕は本物で、タレントには罪がない」「ジャニーのやったことは許せないが、業界への功績は素晴らしい。恩を感じている」という意見。

 この映画は印象に残るのに、まるで謎だらけだ。謎が解けないからこそ、すっきりしないからこそ印象に残るのかもしれない。間違いなく言えることは、ケイト・ブランシェットの素晴らしさだ。なぜ今年のアカデミー賞でエブエブのミシェル・ヨーに主演女優賞を持っていかれたのか理解できない。(Amazonプライムビデオ)

2022
TAR
アメリカ  Color  158分
監督:トッド・フィールド
製作:トッド・フィールドほか
脚本:トッド・フィールド
撮影:フロリアン・ホーフマイスター
音楽:ヒルドゥル・グーナドッティル
出演:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス、ソフィ・カウアー、マーク・ストロング

告白、あるいは完璧な弁護

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 スペイン映画のリメイクだそうな。オリジナルがなかなかよかったのだろう、サスペンス風味たっぷりな展開は手に汗握って面白い。ただし、わたしは途中で真相がわかってしまったので、やや興ざめ。あるいは、わざと観客に気づかせるように演出しているのかもしれない。いずれにしても弁護士を演じたキム・ユンジンが上手い。「シュリ」のヒロインだったとは気づかなかったのだ、すっかり中高年の貫禄たっぷり体型になっていた。

 あらすじは……IT企業の社長ユ・ミンホが愛人殺しの疑惑をかけられたのだが、無実を主張している。そして雇われたのは、絶対無罪を獲得するという凄腕の女性ヤン・シネ弁護士。ヤン弁護士は、「真実を話してくれないと弁護できない」とユ社長に迫る。果たしてユ社長はどこまで真実を語っているのか? ヤン弁護士は真相を突き止められるのか?

 という話で、「真実は藪の中」というストーリー展開が面白い。次々と変わる証言、告白。誰が誰をだましているのかわからないスリリングな展開。そのうえ、殺されたセヒを演じたナナが七変化の演技を見せて秀逸。ナナが異様に可愛いから、これは整形疑惑?

 オリジナルのスペイン映画がとてもよくできているのだろうと想像するが、韓国版ではさらにもう一ひねりがあるとか。嘘というのは一度つき始めると次次に嘘を重ねていかねばならないという泥沼にはまる、という教訓話ですな。あーこわ。( レンタルDVD)

2022
CONFESSION
韓国  Color  105分
監督:ユン・ジョンソク
脚本:ユン・ジョンソク
音楽:モグ
出演:ソ・ジソブキム・ユンジン、ナナ、チェ・グァンイル

浅田家! 

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 実話を元にしているということなので、興味深く見た。

 ひたすら家族の写真を撮り続ける写真家というのも面白い。これは究極の私小説ならぬ私写真集ではないか。赤の他人には何がおもしろいのかと思うのだが、しかしこれが面白いかもとても不思議だ。浅田政志の写真にはなにか普遍的な力が宿っているのだろう。

 かくいうわたしは初孫が生まれて以来、ひたすら孫の写真と動画を記録し続けている。赤の他人には何が面白いのかと思われるだろうが、とにかく飽きない。何度でも見ているし、そのたびに知らず知らずに顔が緩んでニコニコ笑っている自分を発見して可笑しく思う。

 この映画の主人公・浅田政志の場合はそれとは違って自分の家族に仮装させて写真を撮っている。つまりは演出がほどこされているわけ。で、そんなユーモラスな写真集で賞を獲った彼だが、東日本大震災の現地に行って自問自答する。ここで何を撮影するのか? 自分に何ができるのか? やがて彼は津波にさらわれた大量の写真を洗って乾燥させ、持ち主に戻すボランティア活動に参画する。

 この作業がどれほど骨が折れるか、わたしもたった1日だけだが津波に浸かった資料の修復作業を行った経験から、想像できる。作業自体は単調なのでひたすら根気が要る。信念がなければ続けられないことだ。

 面白おかしい家族写真を撮り続ける変わった写真家、そして大震災。いずれも写真の持つ力、つまりは「記録」の大切さを痛感させる映画だった。これは震災復興支援活動に携わる者も、記録保存に携わる者も必見の作品。見終わったあとに心に残るものを大切にしたい。

 いくつかの映画賞でノミネートや受賞を果たしている。中野量太監督、いいい仕事してます。(Amazonプライムビデオ)

2019
日本  Color  127分
監督:中野量太
製作:市川南
企画・プロデュース:小川真司
原案:浅田政志 『浅田家』『アルバムのチカラ』(赤々舎刊)
脚本:中野量太、菅野友恵
撮影:山崎裕
音楽:渡邊崇
出演:二宮和也妻夫木聡黒木華菅田将暉渡辺真起子北村有起哉風吹ジュン平田満