原題は「走れミルカ、走れ」。文字通りインド現代史を駆け抜けたアスリート、ミルカの伝記。ものすごく真面目で重い内容なのに、やっぱり踊るところがさすがはインド映画。
ミルカ・シンは1960年のローマオリンピックにインド代表選手として400メートル走に出場し、ゴール間近で後ろを振り返ってしまい、結局4位に終わる。なぜミルカはゴール直前に振り向いたのか? その謎の答えは彼の過酷な半生にあった。
シク教徒として生まれ育った貧しいミルカ少年は、1947年の印パ戦争に巻き込まれ、故郷パンジャブ地方を放逐される。その過程で家族を殺され、すさまじい労苦を負うことになる。インドへ移ったミルカは俊足を生かし、ランナーとして開花していく。
戦争あり、恋あり、踊りあり、ミルカの波乱の人生は、弛みない演出の冴えによって観客をつかんでいく。大河物語にありがちな、出来事をさらりとなぞっていくだけの皮相な作りにもなっていない。ミルカを演じたファルハーン・アクタルの肉体改造美も見応えたっぷりで、150分をまったく飽きさせない。インドとパキスタンの深い確執が人々の心を肉体を傷つける悲劇も十分に観客に伝わる。ただし、これをパキスタン側から見ればまた別の解釈があるのだろう、と思うし、そもそも前史となるイギリス植民地支配が描かれていないために、政治劇としては薄いうらみがある。まあそんなことを言えば6時間ものになってしまうだろうから、やむなし。
才能だけではなく努力の人でもあったミルカの生きざまに深い共感と敬意を抱く、インド映画最近の一番の収穫作。(レンタルDVD)
RUN MILKHA RUN
153分、インド、2013
監督: ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ、脚本: プラスーン・ジョーシ 、音楽: シャンカル・マハデヴァン 、イフサーン・ノーラニー、ロイ・メンドンサー
出演: ファルハーン・アクタル、ソーナム・カプール、ディヴィヤ・ダッタ、
アート・マリク、ジャプテージ・シン