フィリップ・グラスの音楽が重厚で良い。サントラがほしくなる。
アレンのヨーロッパ三部作の掉尾を飾る作品というふれこみで、テイストは「マッチポイント」にそっくり。夢と犯罪というのはそのものずばりの工夫のない邦題だが、まさにドストエフスキーの「罪と罰」ばりの物語。映画の中でもしばしば言及されるように、この映画はギリシャ悲劇の1バージョンだ。NYで長らくインテリ向けのコメディを作ったウディ・アレンが老人になってからヨーロッパへ行き、作った映画がギリシャ悲劇というのも興味深い。しかしラストにはどこか滑稽なものも漂うので、そこがやはりブラックユーモアのウディ・アレンらしさがにじみ出ている。
労働者の連帯を謳うイギリスものではなく親族の団結を強調する物語を作るとは、イタリアン・マフィアじゃあるまいし、と苦笑しながら見ていたのだが、やはりそこはそれ、家族ほど恐ろしいものはないという教訓に満ちているではないか。平凡に暮らす労働者階級の兄と弟が上昇志向を煽られたばかりに、欲望を募らせて深みにはまる。美女と金と名誉と…。欲しいものは実にありふれていてあまりにも俗物的だ。そんな庶民の欲望を嗤うかのような物語は、一方でそれを他人事のように嗤えない人々が大勢いるということを観客に提示する。この映画はもちろんアンチ・アメリカものであり、ウディ・アレンはアメリカ的上昇志向に取り憑かれた哀れなイギリス人がハリウッドに行きたいと渇望しつつその夢を実現できずに破滅する物語を作ることによって、自らが棄ててきたアメリカへの強烈な皮肉を発散させている。
プロットや登場人物のキャラクターなどが型にはまりすぎていて面白みに欠けるが、最後はやはりウディ・アレンだと思わせる終わりかたがよい。
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CASSANDRA'S DREAM
108分、イギリス、2007年監督・脚本: ウディ・アレン、音楽: フィリップ・グラス
演: ユアン・マクレガー、コリン・ファレル、ヘイリー・アトウェル、サリー・ホーキンス、トム・ウィルキンソン