かつて、青・白・赤の順に(つまり正順)見た三部作、お気に入り度もこの順だった。今回は久しぶりに見ることになり、逆から見てみようという気になった。しかし、ラストシーンを見て、この映画はやはり青と白を見ていないと面白さがわからないんだと判明した。
途中で寝てしまったので再度見直し。見直してみると、なかなか複雑に絡まりあったお話であることが分かり、がぜん面白くなった。イレーヌ・ジャコブの美しさにはただただ見惚れるばかり。
盗聴を趣味とする退官判事と若きモデルとの出会いは偶然だったが、彼らが不思議なことに徐々に心を通わせていく。それはイレーヌ・ジャコブがその見かけの美しさだけではなく、心も優しい「博愛の人」だからだろう。トリコロールの赤は「博愛」を表し、この映画では赤が印象深く使用されている。
この作品は判事の心理が理解できないと不可解なまま終わってしまう。彼がなぜ盗聴などしているのか、なぜ自分を罰するような行為に出るのか、彼の人生の中に置かれているかつての実らなかった愛は今でも形を変えて、別の若者の人生と重なっていること、そういったもろもろがわからないと、深いところで感動することがない。おそらく一度目にこの作品を見た20年前には、それがわからなかったのだろう。今回見直してみて、ラストシーンの衝撃をまったく覚えていなかったことに愕然とした。これほどまでに「運命」を感じさせずにはおかないラストを三部作の最後にもってきたキエシロフスキーは、それまでの2作とこの「赤」で、最後に「出会う」人々の過去を描いていたのだということがこの瞬間にわかるのだ。
元判事役の老人がジャン・ルイ・トランティニャンだったとは。偏屈そうな雰囲気をよく表して名演だ。(レンタルDVD)
TROIS COULEURS: ROUGE
96分、フランス/ポーランド、1994
監督・脚本: クシシュトフ・キエシロフスキー、脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ、撮影: ピョートル・ソボチンスキー 、音楽: ズビグニエフ・プレイスネル
出演: イレーヌ・ジャコブ、ジャン=ルイ・トランティニャン、フレデリック・フェデール、ジャン=ピエール・ロリ、ジュリエット・ビノシュ、ジュリー・デルピー