吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

X-MEN: アポカリプス

 アクションシーンが単調なので飽きてしまって途中少し爆睡。
 プロフェッサーが髪の毛ふさふさ状態から一気にスキンヘッドになってしまう原因や経過が見られたのがなによりも驚愕かつ感動的だった。

 マイケル・ファスベンダー目当てで見に行った本作で決定的に気付いたことは、この人には哀しい役が似合うということ。いつもいつもこれ以上ないというほどの悲哀をたたえた瞳をしている。彼に魅かれてしまう原因がそこにあったことにようやく気付いた。
 で、マイケル・ファスベンダー以外のところは既にほぼ忘れている(汗)。

 このシリーズは善悪の戦いが単純な二元論ではなく複雑にねじれているところが魅力だった。また、異形のミュータントがその姿のままで人間社会との共存は可能か、という問いかけがクリティカルで興味深かったのだ。その意味ではだんだんシリーズが持っていた深みがなくなってきているのは残念。

 今回は史上最強のミュータントである古代エジプト時代の恐るべき敵が1980年代によみがえる、というお話。この新シリーズは旧シリーズの前日譚を10年刻みで描いていくという趣向だ。60年代は冷戦真っ最中のキューバ危機が背景になっていて、政治史の確認という意味で面白かった。70年代はプロフェッサーがヒッピーふうだったのが意外だったし、ベトナム戦争の終結が描かれていて、現代史を考えさせる題材を提供していた。で、今回の80年代はいろいろと個人的には懐かしい。登場人物たちが「スターウォーズ」の第3作を見終わって劇場から出てくるシーンで、「シリーズものは第3作がダメなのよ」と喋っているのがツボだった。

 しかし、80年代的な面白さがどこにあったかというと、よくわからない。わたしが覚えていないだけか? とにかく目が覚めるようなシーンがほとんどなくて、むしろ眠くなる一方。派手なドカーン、バキューン、という音がして花火のような光線が発射されるだけで、それはアクションものとしても見所が少ないと言える。超能力を発揮しているといっても、そのシーンはやたら気張っているマグニートーの顔と手を映すしかなくて、芸がなさすぎる。
 あ、例外的に面白いシーンを忘れていた。それは超高速で移動が可能なクイックシルバーだ。彼にとってはすべてが止まって見えるほど遅いから、飛んでくる弾もひょいとつかんでポイと捨てられる。その技をストップモーションシーンで見るのが楽しい。これは「フューチャ・アンド・パスト」でもお馴染みになったもので、今回も見られたのは大満足。

 シリーズの掉尾を飾り、旧作へとつながるサーガがここで完成したとなると、まるでスターウォーズ六部作のようではないか。思わず、旧作第1作に戻って見直したくなるところが憎い。やっぱり最後までちゃんとシリーズは観ないとね。

X-MEN: APOCALYPSE
144分、アメリカ、2016 
監督: ブライアン・シンガー、製作: サイモン・キンバーグ、ブライアン・シンガーほか、脚本: サイモン・キンバーグ、撮影: ニュートン・トーマス・サイジェル 、音楽: ジョン・オットマン
出演: ジェームズ・マカヴォイマイケル・ファスベンダージェニファー・ローレンスオスカー・アイザックニコラス・ホルトローズ・バーンヒュー・ジャックマン

 

X-MEN: DAYS OF FUTURE PAST

 前作の続編だが、えらく雰囲気が暗くなった。三部作の真ん中の宿命か、前作が持っていた新鮮な感動がなく、次回作に続く中途半端さが否めず、いまいちの印象を残した。監督がブライアン・シンガーというのも影響ありか。
 たぶん、今作が過去と現在を往還するタイムトリップものという点が難しかったのだろう。タイムパラドクスをどう処理するつもりなのかが興味津々だったが、そんなことには製作者はさして関心を払っているように見えない。
 アクションにも新味がなくて、目覚ましいものは感じなかった。面白かったのは堅物のはずのプロフェッサーが若いころは薬中でヘロヘロになっているところ。1973年という時代背景があるからだろう。 
 さあ、劇場公開の第三作に期待しよう。(レンタルDVD)

132分、アメリカ、2014 
監督: ブライアン・シンガー、脚本: サイモン・キンバーグ、撮影: ニュートン・トーマス・サイジェル 、音楽: ジョン・オットマン
出演: ヒュー・ジャックマンジェームズ・マカヴォイマイケル・ファスベンダージェニファー・ローレンスハル・ベリーニコラス・ホルトエレン・ペイジピーター・ディンクレイジショーン・アシュモア、オマール・シー、イアン・マッケランパトリック・スチュワート

 

X-MEN:ファースト・ジェネレーション

 エックスメンシリーズの冒頭に戻るお話で、いかにしてエックスメンという集団が生まれたのかを描くのが本作。

 宿敵同士のプロフェッサーXとマグニートーが若いころは親友だったとか、彼らの生まれ育ちの違いが思想と理想の分裂を生むことが描かれて非常に興味深い。

 マグニートーナチスの収容所で母親を殺され、その仇を討つために復讐の権化と化し、やがては暴力を辞さない人間になっていくところは、ホロコーストを生き残ったユダヤ人が好戦的なイスラエル国家を建設したことと重なって見える。金持ちのボンボンで頭のいいプロフェッサーが融和主義者なのも首肯できる。マグニートーはどうしてヘルメットを被っているのか、なぜプロフェッサーが車椅子生活になったのかが描かれていて、これまでのシリーズで欠けていたパズルが一つずつ埋まっていく心地よさがこの映画にはある。

 1962年のキューバ危機にミュータントが絡んでいたという荒唐無稽なお話も大変面白くてよくできている。米ソの対立を裏で操る謎の男がケヴィン・ベーコン演じるミュータントで、この憎々し気な悪役ぶりが板についていてこれも大変よろしい。今から考えるとなんであんなに米ソは対立していたのだろうかと、冷戦時代が謎に思えてくる。ミュータントという共通の敵の前には手を組んで見せる米ソの狡猾さも現在の現実の国際政治を見るようで、このシリーズが決して子供騙しの漫画映画ではないことがわかる。

 ミュータント一人ずつのキャラクターもきちんと描きわかれており、後にミスティークとなるレイブンの愛らしさも特筆もの。ミュータントたちが自分の能力を制御し成長させていく過程もスピーディな演出で描かれており、アクションシーンの派手さだけではなくて、演出全体にメリハリがあって退屈しない。子どもから大人まで楽しめる。(レンタルDVD)

X-MEN: FIRST CLASS
131分、アメリカ、2011 
監督: マシュー・ヴォーン、原案: ブライアン・シンガー、脚本: マシュー・ヴォーン、ジェーン・ゴールドマン 、アシュリー・エドワード・ミラー、ザック・ステンツ、撮影: ジョン・マシソン、音楽: ヘンリー・ジャックマン
出演: ジェームズ・マカヴォイマイケル・ファスベンダーケヴィン・ベーコンローズ・バーンジャニュアリー・ジョーンズオリヴァー・プラットジェニファー・ローレンスニコラス・ホルト

 

ウルヴァリン:X-MEN ZERO

 Xメンの前日譚。いかにしてXメン=ウルヴァリンが誕生したのかがわかる。一回目は寝落ちしたので、再度DVDを見直してみて、なかなか面白いということに気付いた。シリーズ本編よりも面白いのではないか。無常感が漂う、かなり大人のテイストになっているからだろう。

 ウルヴァリンの誕生は19世紀に遡る。彼は裕福な家の病弱な次男として子ども時代を過ごしていたようだ。ある日、衝動に任せて実父を殺してしまったひ弱な少年ジェームズが、実は並外れた能力を持つ人間であったことが分かる。そこから彼は、兄ビクターと共に「ミュータント」として生きることを選択する。ミュータントの兄弟はやがて成長して南北戦争に従軍し、第一次世界大戦塹壕戦を戦い、第2次世界大戦ではノルマンディー上陸作戦に参戦し、ベトナム戦争にも加わる。各地の戦争で兄ビクターは殺戮の快感に酔いしれ、その残虐さを止めようとするのはいつも弟ジェームズの役目だった。
 ベトナム戦争で上官を殺害したために二人は銃殺刑となるが、ミュータントの彼らは銃なんかでは死なないのである。彼らの特殊能力を買った人物がここで登場する。ミュータントによる特殊部隊を編成しようとたくらむ将校ストライカーこそがその人物である。

 ストライカーの作戦に賛同しがたいジェームズは彼のもとを飛び出し、カナダの山奥で木材伐採人として平和に生きていた。ケイラという美しい女性と共に。だがそのケイラをビクターに殺害され、復讐の鬼と化したジェームズ・ローガンは、「ウルヴァリン」として生まれ変わる。。。。。

 全体に暗い雰囲気がただよい、同じミュータント兄弟とはいえ、ビクターとローガン(ジェームズ)の違いが鮮明になり、やがては血で血を洗う争いになっていくところがさらにダークな味わいを深める。愛する女性を殺されたり、さまざまにつらい別れがあって、ラストの切なさも一級品だ。ミュータントたちが次々に登場してくる場面が、やがてXメン本編につながるというのがよくわかって大変面白い。
 一方でアクションシーンが若干単調だったり、超能力の面白さがそれほど生かされていなかったりという短所もある。何よりもユーモアがほとんどないのが、これまでのシリーズとは異なる点か。好みがわかれるところだけれど、わたしはダークで物悲しいこの映画が気に入った。続編も見ようっと。(レンタルDVD)

 ※続編はつまらなかったので、感想は書かない。

X-MEN ORIGINS: WOLVERINE
108分、アメリカ、2009 
監督: ギャヴィン・フッド、脚本: デヴィッド・ベニオフスキップ・ウッズ、撮影: ドナルド・M・マカルパイン、音楽: ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演: ヒュー・ジャックマンリーヴ・シュレイバーリン・コリンズダニー・ヒューストンテイラー・キッチュライアン・レイノルズ、ウィル・アイ・アム

 

X-MEN:ファイナル ディシジョン

 やはりこのシリーズは面白い。シリーズ第3作は、これだけ見ても十分面白い。てか、前2作をほぼ忘れているので、わたしとしてはこれだけで単作扱い(汗)。
 しかし、登場人物(ミュータント)が多すぎて名前と顔が一致しない! 最後まで誰が誰だかよくわからなかった(大汗)。
 それでも、ウィキペディアがあるので便利ですなー。過去作のストーリーはウィキペディアを読んで復習しました!

 今回は、「ミュータントは病人だから治療して普通の人間にすればいい」という親切な人間が現れて、ミュータントを人間化するワクチンを開発してしまう。これは「黒人を整形手術して白人にすればいい」みたいな発想と同じですな。そしてこの薬「キュア」によって完璧な白人女性に変えられてしまった時のミスティークの美しさと哀れさは心に残る。どちらが美しかったのか? ミュータントとしての青い肌の彼女と、真っ白い肌の白人と。大変意味深い場面だ。

 このシリーズ作品は善悪の判断を棚上げにすると同時に、観客の価値観や差別意識を揺さぶる面白さがある。ところが、善悪を棚上げという基本路線を逸脱する設定が今回行われた。それがジーンである。亡くなったはずのジーンが二重人格を持った人物へと増悪し、彼女の中で善悪の交代劇が始まる。善悪がはっきりしないところが良いのに、ジーンの中では善悪が極めて明確に区別がつく。表情まで全部変わってしまうからわかりやすい。まあ、そうしないと二重人格の区別がつかないから演出上、やむを得ないのだろう。

 ジーンの力が大きすぎて、ミュータント界の秩序を乱す。それは映画全体の物語の整序も乱す。どうも今回ジーンという女性の存在がえらく気になる。だれかこれをちゃんと分析すべきではないか。

 これ、絶対に続編ができる終わり方ですな。(レンタルDVD)

X-MEN: THE LAST STAND
105分、アメリカ、2006 
監督: ブレット・ラトナー、脚本: ザック・ペン、サイモン・キンバーグ、撮影: フィリップ・ルースロ、ダンテ・スピノッティ、音楽: ジョン・パウエル

出演: ヒュー・ジャックマンハル・ベリーパトリック・スチュワートファムケ・ヤンセンイアン・マッケランレベッカ・ローミンアンナ・パキンエレン・ペイジ

 

さよなら歌舞伎町

 細かく何回にも分けて観たから、ストーリーがいまいちよくわからなくなってしまったが、なかなかに面白い群像劇。

 新宿・歌舞伎町のラブホテルが舞台だけあって、身体を張った女優の演技が続出するのだが、わけありの人々ばかりが登場するホテルの24時間は結構切なく暗い。

 ラブホテルの清掃員を演じた南果歩が素晴らしい演技を見せていて、ちょっとしたしぐさや表情に彼女が背負って立つものの重さや辛さ、投げやりな感じがとてもよく出ている。この清掃員は時効を2日後に控えて、愛人とひっそり隠れ暮しているのである。南果歩が意外とコメディにもいけるんだとわかった。この人、中年になっていい味を出している。

 ヒロインのはずの前田敦子の影が薄いのはどういうわけか。それに引き換え、韓国人女優のうまさには舌を巻いた。このパートの良さは格別だし、最後に泣き笑いの結末が待っているのがしみじみさせられた。

 売春する女、買う男、逃げるおばさん、W不倫の警官、福島の原発立地からの避難者である主人公の若者は、恋人に「一流ホテルに勤めている」と嘘をついてラブホテルの支配人をしている。いろんな人々の悲喜こもごもが歌舞伎町の小さなラブホテルを舞台に繰り広げられる。作り話なのだから、偶然がいろいろ重なるという非現実的な展開もあるけれど、それはそれで面白い。(レンタルDVD)

135分、日本、2014
監督:廣木隆一、製作総指揮:久保忠佳、脚本:荒井晴彦、中野太、撮影:鍋島淳裕、音楽:つじあやの
出演:染谷将太前田敦子、イ・ウンウ、ロイ、樋井明日香我妻三輪子忍成修吾大森南朋田口トモロヲ松重豊南果歩

 

二ツ星の料理人

 次々と画面に出てくる料理がとにかくおいしそうでたまりません。画面にアップにされる料理の数々にはため息。わたし自身は一生食べることはないだろうけれど、見ているだけで幸せになれる。と同時に、こんな料理を食べ続けることができる人たちってどういう階級・階層なんだろう、と思う。ミシュランの星がついているレストランは、貧乏人のためには料理を作ってくれないだろう。

 料理もまた文化である以上、それを保護する人々は「貴族」であるに違いない。かつて文化の守護者は王侯貴族であった。現在ではそれがある程度は行政によって肩代わりされ、そのおかげで庶民も文化のおこぼれにあずかることができるようになった。しかし、博物館や図書館が低価格または無料で公衆のために開かれているのは違って、高級レストランが行政の保護のもとに庶民に料理を振る舞うことなど考えられない。

 だからこそ最高の料理人は「貴族」のために腕を振るい、ミシュランの星を獲得するためにしのぎを削る。だがその価値観は人としての豊かな心根を腐らせていくのではないか。いつだったか、ミシュランの星付きレストランのシェフが自殺するという事件があった。ストレスから鬱病を発症したといわれていた。それほど過酷な競争にさらされるシェフの世界で、かつて二つ星を獲得した料理人がこの映画の主人公だ。彼の名はアダム。腕のよさに反比例して、傲岸な態度で周囲を振り回し、挙句はドラッグに溺れて仕事を放擲し、レストランを一軒つぶした過去を持つ。そんな彼が立ち直って三ツ星を狙う、とやる気満々になっているところから物語は始まる。

 かつて迷惑をかけた恩人の息子が経営するホテルのレストランに乗り込み、強引にシェフに収まったアダムは、優秀な女性シェフのエレーヌをこれまた強引な方法で引き抜き、スタッフを揃えて開店にこぎつける。だが、過去の借金のせいでヤクザに付きまとわれるといった暗い影が消えない。おまけに傲岸で癇癪持ちの彼の態度に同僚たちも心を開かない。そんなある日、とうとうミシュランの調査員がやってきた。緊張の面持ちで勝負に出たアダムだったが。。。。

 アダムの問題ある性格や厨房でのパワハラぶりにはうんざりさせられる。こんな嫌な主人公もたまったもんではない、と思う。だが彼がやがて天上天下唯我独尊の態度を改め、仲間との共同作業の楽しさや喜びに目覚めていく場面は感動的だ。料理もたいへん美味しそうで、厨房の様子もテレビ番組「料理の鉄人」を思い出させるような緊迫感にあふれ、スピード感もあり、ぐいぐいと見せていく。

 ブラドリー・クーパーの出演作で彼をハンサムと思ってうっとり眺めたのは初めてだ。性格は悪いくせに見た目のいいシェフではないか。それは、最後に彼が見せた笑顔や柔らかな態度へとつながる撮り方だったのではないか。見終わった後、すがすがしさが残る良い映画だった。

 やっぱり、料理は競争じゃないよね。孤高のシェフが口にする高級料理よりも、みんなで食べるお気軽なまかない食のほうが美味しいんだよ。ミシュランの調査方法も興味深かったとはいえ、なんだか因果な商売だ。

BURNT
101分、アメリカ、2015
監督:ジョン・ウェルズ、製作総指揮:ボブ・ワインスタインほか、原案:マイケル・カレスニコ、脚本:スティーヴン・ナイト、音楽:ロブ・シモンセン
出演:ブラッドリー・クーパーシエナ・ミラー、オマール・シー、ダニエル・ブリュール、マシュー・リス、ユマ・サーマンエマ・トンプソンアリシア・ヴィカンダー