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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

レヴェナント:蘇えりし者

映画

 これぞ映画! 地面の水がさわさわと波立ち、水の中から屹立する木々をカメラが舐め上げる巻頭の水辺の林のシーンで既にわしづかみされ、一気に映像世界に体ごと入っていく感覚に酩酊する。そんな、至福の映像体験ができる作品。これは文字で表すことのできない感動と興奮だ。

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 ストーリーは単純なサバイバル劇であり復讐譚だから、見所ではそこではなくひたすら雄大な映像であり、熊との格闘に見られるような迫力あるカメラの動きだ。

 物語は19世紀初頭のミズーリ川沿いを行く毛皮猟師たちの一行が、途中でネイティブ・アメリカンに襲われたり、主人公ヒュー・グラスが熊に襲われたりしながらサバイバルの旅を続ける、というもの。ヒュー・グラスはポーニー族の娘を愛し、彼女との間に息子をもうけていた。グラスの妻は回想場面でしか登場しない。若くて美しい姿のまま虐殺された彼女の面影は常にヒュー・グラスと共にあり、その姿は愛する息子に引き継がれた。しかし、息子はハンター仲間のフィッツジェラルドに殺されてしまう。自らも瀕死の重傷を負ってフィッツジェラルドに見捨てられたヒュー・グラスは、あくまでも生き延びて復讐を誓う。極寒の中を歩むハンター一行とその後を追うグラスの道行はどうなるのか。

 グラスがネイティブ・アメリカンの知恵を持っているからこそ、サバイバルが可能になったのだろう。彼は火を熾し、熊の毛皮を身にまとい、死んだ馬の皮をかぶって生き延びる。熊に引きちぎられて肉がえぐれ、骨が露出していても、彼は死なない。そのすさまじいバイタリティには言葉を失う。この雄大な映像はルベツキ撮影監督の手になる。長回しによって雄大な平原と水辺の風景をスクリーンいっぱいに広げて見せ、アクションシーンではカメラが生きて動いているような滑らかな動線で人物をアップで撮る。奇跡のような撮影だ。この雄大な風景はテレンス・マリックの「ニュー・ワールド」でルベツキが見せた映像美に匹敵する。

 映画を観る前に、Aさんから「タルコフスキーにそっくり」と聞かされていたので、どこがそうなのだろう、と思っていると、いきなり水辺のシーンなので、「おお、水か! タルコフスキーか」と思い、身体浮遊の場面はそのまま「サクリファイス」であり、他にも美術デザインは「アンドレイ・ルブリョフ」(これ、未見なんだ)を参考にしたというから、相当にタルコフスキーに入れ込んでいるのだろう。

 絵の力で物語を魅せる、という点ではまごうことなく成功している映画だ。大自然は人間が挑もうとしても木っ端みじんにされてしまうものだが、畏敬の念をもって接すればその力を貸してくれる。その力と人の知恵こそがヒュー・グラスを生きさせた源泉であり、彼の心を支えたのは結局のところ、妻と息子への愛だったのだろう。どんなに絶望的な状況でも愛が彼と共にあって心を癒し、また復讐のむなしさを教えたのも愛だった。というように映画の内容を言葉で説明することに空しさを感じてしまうほど、映像で語られたものは目と耳で受け止めるべし、というべき作品だ。 

 レオナルド・ディカプリオがようやくアカデミー賞を獲ったことで話題にもなったように、とにかく熱演の上にも熱演、ここまでやるか、のレベル。演技力が優れているかどうかよりも、あらゆる困難な撮影にも果敢に挑む勇気と熱意に与えられた賞ではないか。

 坂本龍一の音楽は重厚で控えめ。アクションシーンでは打楽器が主役になる。映像を決して邪魔することのないBGMに徹した点がよかった。

 絶対に映画館で体験してほしい映画。心も身体も冷え切るほどにリアルな映像体験ができる。

THE REVENANT
156分、アメリカ、2015 
製作・監督・脚本: アレハンドロ・G・イニャリトゥ、製作総指揮: ブレット・ラトナーほか、原作: マイケル・パンク、脚本: マーク・L・スミス、撮影: エマニュエル・ルベツキ、音楽: 坂本龍一、カーステン・ニコライ
出演: レオナルド・ディカプリオトム・ハーディ、ドーナル・グリーソン、ウィル・ポールター、フォレスト・グッドラッグ