吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

戦争より愛のカンケイ

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Comments これはいかにもフランス映画だ。こんな理屈っぽい映画は日本では絶対に受けない。あ、やっぱり劇場未公開。理屈っぽい話を理屈っぽくなくコメディにしてしまったところが監督の才能だ。 

 学生時代の活動家の業界用語に「肉体オルグ」というのがあったことを思い出す。肉体オルグを地で行く若くて魅力的なヒロインがあまりにも常識からはみ出しているところが天晴れ。バイヤという名前のヒロインを演じたサラ・フォレスティエがたいそう可愛らしく、惜しげもなく裸体をさらしているところもまた天晴れ。ジャック・ガンブランは登場した瞬間に「あ、カミュ」(映画「最初の人間」参照)と思ってしまったが、実際、ジャック・ガンブランが演じる主人公アルチュールは異邦人なのだ。 

 物語はヒーローとヒロインの出生前にさかのぼる。彼らの祖父母の代からのお話は、移民とナチスの迫害とアルジェリア戦争と左翼エコロジスト、といったフランス現代政治史を下敷きにしているため、相当に知識がないとさっぱりわからないだろう。わたしは見ている途中でアルチュールの両親とバイヤの親のどっちがアルジェリア人だったけ、どっちがユダヤ人だったか、とか混乱してしまった^^; 

 バイヤの母親も極端なご都合主義左翼なら、バイヤ自身も極端から極端へとぶれる、奇天烈な娘。右翼を懐柔するためにとにかくセックス。まずは寝る。「食事とセックス、どっちを先にする?」「買い物とセックス、どっちにする?」と初めてのデートでアルチュールに迫るバイヤは、誘う女という色っぽさもなく、あまりにもあっけらかんとしているので、アルチュールはタジタジ。親子ほどにも年齢が離れた二人が、お互いの文化の違いに(というか、バイヤの文化になじめる人間はまずいないでしょ、ふつう)ついていけなくて別れたりくっついたりを繰り返す。バイヤに振り回されるアルチュールがいつしか、「君といると楽しいね」と言うようになるシーンは心がほのぼのする名場面だった。そう、カニを7匹買って海へ放すシーン。 

 原題は「人々の名前」。その原題の意味が効いている、ラストシーン。最後まで笑えました。リオネル・ジョスパンが本人役で登場したのにはびっくりした。 

 この監督は間違いなく左翼だろうけれど、左翼自身を批判的に描いている自虐ネタが心地よかった。すべてのシーンが笑いのネタなので、最後まで退屈しない。 

 ギリシャ移民(? アルメニアの難民ではなかろうか)、ヴェル・ディヴ事件、アルジェリア戦争、フランスの反原発運動、フランス社会党、といったキーワードが理解できないと面白さ半減以下。

LE NOM DES GENS

95分、フランス、2010

監督: ミシェル・ルクレール、製作: カロリーヌ・アドリアンほか、脚本:バヤ・カスミ、ミシェル・ルクレール、音楽: ジェローム・バンスーサン、ダヴィド・ウーヴェルト

出演: ジャック・ガンブラン、サラ・フォレスティエ、ジヌディーヌ・スアレム、カロル・フランク、ジャック・ブーデ、ミシェールモレッティリオネル・ジョスパン