ナレーションなどの説明がまったくないドキュメンタリー。これほど不親切なドキュメンタリーも珍しいが、それでも画面に映し出されている目の前の「出来事」に目が釘付けになってしまう。誰もが食べている肉や野菜がどのように栽培・加工されているのか、ただそれだけを淡々と映し出しているにも拘わらず、事実そのものが持つ力によってわたしたちは驚異の新世界を知ったような感動に満たされる。
S次郎が「これ、面白いなぁ、学校で上映したらええのに」と言っていたように、まるで教育映画だ。しかし、豚の屠殺場面など、あまりにもシステマチックであまりにも残虐なので小学生には見せられないかもしれない。殺され選別されていく生き物たちの姿も驚異だが、それを無表情にこなす工場労働者の姿もまたなんだか怖い。こういう労働があって私達の口に食べ物が入るのだ、ということをよく知っておく必要があるだろう。ただし、とっても眠くなることも間違いないので、そこは要注意。
これを見て、シカゴの移民労働を想起した。ヘイマーケット事件(1886年)*1のころ、全米一の精肉産業地であったシカゴにはドイツ系移民が溢れていた。彼らがシカゴで豚を捌き、ハムやソーセージを作っていたのだ。この映画はドイツまたはオーストリアで撮影されたようだが、こういう仕事はドイツ人たちにとっては伝統的な産業なのだろう、と改めて思った。(レンタルDVD)
UNSER TAGLICH BROT
92分、ドイツ/オーストリア、2005
監督・撮影: ニコラウス・ゲイハルター
編集: ウォルフガング・ヴィダーホーファー
*1:ヘイマーケット事件についてはエル・ライブラリーのブログに解説を書いています。http://d.hatena.ne.jp/l-library/20090128