吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

赤い文化住宅の初子


 父は蒸発、母は過労死、兄と二人、文化住宅の2階の小さな部屋で暮らす中学3年生の初子は貧乏なために高校へも進学できない。一生懸命勉強して成績も上がり、広島県内でも有名な進学校へ合格できそうというのに、高校へ行くこともままならい初子。暗い生活の中で唯一の灯りは同級生のミシマくんだ。彼は初子の初恋の相手。大人になったら初子と結婚するんだとミシマくんはいじらくしくも誓ってくれる。ああ、でもでも… 

 とまあ、恥ずかしくなるぐらいの薄幸の美少女物語。不幸の雪だるまのヒロイン初子はけなげで初々しく、懸命に生きている。いまどきこんな「おしん」みたいな話が…などと思ってはいけない。バブルがはじけて以来、おそらくこんな話はいくらでもあるんだろう。「ホームレス中学生」みたいなケースもあることだし。

 十代の子どもだけで生活している姿は「誰も知らない」を彷彿させるが、本作のほうが子どもたちの年齢が高い分、悲惨度は低い。とはいえ、家には電話もなく、電気すら止められてしまう生活はやっぱりどうしようもない困窮ぶりがにじみ出て目を覆うものがある。教師も助けてくれない。通りすがりに親切にしてくれたおばさんも実は下心があったし、おまけに最後にはさらなる不幸が待ちかまえている。

 初子は健気だけれど、表情は暗い。ラストシーンも希望があるのかないのかよくわからない。このラストシーンに希望を見いだせる人はまだまだ夢見る初々しさ・若さを自分の中に持っていると言えるだろう。わたしのような中高年には厳しい現実が見えてしまう。そういうふうに醒めた目で見てしまう自分が悲しい。わたしもすっかりおばさんだわ…。

 派遣切りの世知辛い世の中、貧しさが身にしみる人々のなんと多いことか。映画の物語として消費できない厳しさをひしひしと感じる。(レンタルDVD)

------------------

赤い文化住宅の初子
日本、2007年、上映時間 100分
監督・脚本: タナダユキ、プロデューサー: 小林智浩ほか、エグゼクティブプロデューサー: 片岡正博ほか、原作: 松田洋子、音楽: 豊田道倫
出演: 東亜優塩谷瞬佐野和真、坂井真紀、桐谷美玲鈴木慶一浅田美代子
大杉漣