ロード・ムービー「モーターサイクル・ダイアリーズ」はアンデスの山々の風景が美しい、明るく楽しい青春物語だった。その原作であるゲバラの若き日の日記が、本書。これはもう、映画と原作、どっちがいいかなんて比べられないね。
ゲバラは文才のある人で、ゲリラ戦の日々を綴った『ゲバラ日記』も読ませるものだったが、本書もたいへんおもしろい。革命家チェ・ゲバラの片鱗はここにはほとんど見られないが、親友アルベルト・グラナードとの南米縦断無銭旅行の抱腹絶倒ぶりはどうだろう! 医者の卵と生化学者という肩書きをいいことに行く先々でタカリまくる、厚顔無恥な若者二人の旅は、いかにもラテン系の明るさと伸びやかさに満ちている。
若者というのはこうでなくちゃ。これが若さの特権だよね、ほんとにうらやましい。でもわたしは若いときでもこんな無謀な旅はできなかったから、年齢のせいじゃなくて個性の違いだろう。
ゲバラの文体はユーモラスで知的。誇張を得意とする修辞、軽快な文体は魅力的だ。この旅行記を読みながら、何度も映画の場面が目に浮かんだ。あの美しく雄大な風景はやはり映像で見なければわからない。いっぽう、ゲバラの繊細な感性や大人びた知性、といったものは原作を読まなければピンとこない。これはぜひ原作と映画の両方を見て読んで堪能すべき作品だ。
映画の中で印象的だった場面なのに旅行記では書かれていない部分もある。たとえば、高名な医者の邸宅を訪ねて歓待され、その老医師の小説を無理やり読まされたゲバラが馬鹿正直に「こんなくだらない小説はない」と真面目くさった顔で論評する場面。融通の利かない実直な青年の一面が現れるところなのだが、ゲバラの日記に記載がないとすると、この部分はグラナードの日記に拠ったのだろう。
また逆に、日記のなかで爆笑もののエピソードとして描かれていることが映画に取り上げられていなかったりする。映画的にはすごくおもしろい場面になるだろうに、不思議だ。
ピピのシネマ日記で「映画的には特にすぐれた演出がない」云々と書いたけど、この原作であの映画なら、じゅうぶんいい出来だと評価を改めることにした。ゲバラの旅行記はおもしろいのだけれど、会話文が少ないため、脚本にしにくかろうと思うのだが、映画は実に生き生きとした台詞や描写にあふれていた。
ゲバラたちの好奇心はどこまでもアンデスの奥深くに入り込む。なんでも見てやろう行ってやろうという知性と感性がやはり後の革命戦争にはせ参じるゲバラを生んだのだろう。ハンセン病の療養所でのエピソードも映画ではクライマックスシーンとして描かれているが、本書ではわりと描写は淡々としているし、映画とかなり異なる。
ところで、ゲバラたちが立ち寄った先には図書館や博物館もあるのだが、彼は歴史にもいたく興味があったようで、インカ帝国の歴史を書いたくだりがある。インカの王様にマ●コ2世という人がいて、征服者スペインに果敢に抵抗した英雄なのだが、なんとまあ、この人の名前が声に出して言えない日本語(笑)。「お」をつけて敬称で呼んだりした日にはもう~~(爆)。
映画の感想はこちら、「シネマ日記」をどうぞ。↓
http://www.eonet.ne.jp/~ginyu/050609.htm