吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

『死霊』を読む前に

艱難辛苦を乗り越えて読了した『死霊』、こんなにいい解説書があるなら、こっちを先に読んでおくべきだった。鶴見俊輔は何度も埴谷雄高に言及していたというのに、まったく無関心というか無知というか、なんで今まで読まなかったのだろうと蒙昧を恥じる。

 わたしは『死霊』をヨーロッパの味わいのある小説だと思っていたのだが、鶴見に言わせると埴谷の作品は日本文学の伝統を引きつぐものであるという。このことを最初に看破したのは武田泰淳だそうだ。


 鶴見の『死霊』読解はわたしが気づきもしなかったこと、あるいは無知ゆえに見えなかったことを明るく照らし出してくれる。鶴見さんはほんとに優れた読者だ。まあ、しかし『死霊』を読む前に鶴見さんの読解を読んでしまうとそこから自由になれない嫌いもあるので、苦労しても自分の力で読むほうがいいだろうな。その上でつたない感想や的外れの批評を恥ずかしげもなく書いてbk1に投稿するなんていう恥をかいたほうがいいかもしれない。


 本書は鶴見俊輔が繰り返し埴谷雄高について述べた論考を年代を追って編んである。対談も挿入されていて、バラエティ豊かだ。内容的には重複もたびたび見受けられるが、それは必ずといっていいほど埴谷雄高の出自に関する部分を含む。

 埴谷といい鶴見といい、「もうろく」が共通のキーワードのようになっているじいさんたちが、とても好ましく思える。こういう耄碌ならなりたいものだ。耄碌して肩肘張らず、若い頃に言えなかったことも正直にしゃべってしまう。いいね。

 本書の魅力は埴谷雄高に源泉があるのか、それとも鶴見俊輔の魅力か。いっけんぜんぜん違う個性のように思えて、この二人はとてもいいコラボレーションを残してくれたものだと思う。一読者として感慨深い。


<書誌情報>

 埴谷雄高 / 鶴見俊輔著. -- 講談社, 2005