吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

夜顔


 またまたまたしても、してやられた! なに、このラスト! 99歳の老監督のほくそ笑みが目に浮かびそうな意地の悪いこのラスト。あっけにとられた。

 ルイス・ブニュエル「昼顔」へのオマージュ作であり続編だから、「昼顔」未見だとまったく面白くないので、十分な復習が必要。わたしは復習しなかったのでわからない部分があって存した気分。「昼顔」から40年近くたって偶然再会した当事者たちは、密室ディナーの場で過去の秘密について明かそうとするが…

 そもそも、「昼顔」のことはほとんど覚えていない。カトリーヌ・ドヌーブの人間離れした美しさと、幻想的で美しいラストシーンしか頭に残っていないのだ。ブルジョアジーの頽廃なんて、そんなもの今更。とか思っていたのだが、ブルジョアジーはやっぱりブルジョアジーであります。40年経って偶然再会した、かつての高級娼婦「昼顔」と、彼女の夫の親友は、相変わらず贅沢な暮らしをしているようで。「昼顔」セヴリーヌを偶然見つけて彼女の後を追うアンリ・ユッソンの追跡劇はけっこうはらはらさせる。ユッソンの役どころをすっかり忘れていたものだから、面白みが半減してしまったのは残念。

 ユッソンが親友の未亡人セヴィリーヌを見つけてから、逃げる彼女を捕まえるまでがけっこう長い。この間のやりとりがやきもきさせ、ユッソンがセヴリーヌを追って入ったバーでのバーテンダーとのやりとりがまた興味深い。神なき時代の「告解」の相手はバーテンダーなのかもしれない。

 そして、ようやくディナーまでたどり着いた老人二人の高級ホテルでの食事風景がまた緊張感に溢れている。過去の秘密を明かそうと約束したユッソンは、嫌に上機嫌で、一方の昼顔セヴリーヌは緊張の面持ち。給仕人たちを追い払って二人きりになった後、彼女は何度も言う。「わたしはかつてのわたしではないの。もう別人なのよ」と。しかし、ユッソンは嗤う。「あなたが敬虔な信者になったのですか? あなたが?」と。

 40年の時を経ても、かつてのイメージはぬぐいようもない。背徳の欲望に身をさらし、倒錯した愛の世界に歓びを得たセヴリーヌは、何年たってもユッソンにとっては「昼顔」なのだ。夫を愛し抜いていたセヴリーヌは、どんな情欲に身を浸しても自分の愛は真実だったと語る。

 そして、丁々発止の会話が止んだとき、そこに現れるものは…

 これほど人を食ったラストはありませぬ。いつでもこんなふうに終わらせるのがもしおしゃれだと思っているなら、それは大間違い。これは、あくまでもルイス・ブニュエルの「昼顔」をどう解釈するかという問題であり、その解答たる続編をオリヴェイラはこう作ったという希有な成功例だ。いや、失敗かも。だって、劇場を後にする観客たる老人たちは、満足していたかな?(ものの見事に観客は中高年以上でした) 

 それにしても、「家路」でも好感度が高かった老優ミシェル・ピコリ、「夜顔」でも小憎たらしいほど巧くて渋い。わたし好みのセクシーなお爺さんです。もともと「昼顔」の登場人物で、同じ役を演じている。バーテンダーを演じて印象に残ったハンサムな青年はオリヴェイラ監督の孫のリカルド・トレパ。カトリーヌ・ドヌーヴの代わりに彼女の40年後を演じたビュル・オジエもなかなか雰囲気が似ていてよかったです。でもまあ、この映画に金を出して見にいった観客を呆然とさせるラストにはちょっとどうかと思いましたよ、ホント。


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BELLE TOUJOURS
フランス/ポルトガル、2006年、70分
監督・脚本: マノエル・デ・オリヴェイラ、製作: セルジュ・ラルー
出演: ミシェル・ピコリビュル・オジエ、リカルド・トレパ