吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

明日へのチケット


 カンヌ映画祭パルムドール組3人の監督によるオムニバス。それぞれの監督の個性が際立ってい て、面白いオムニバスになっている。しかも、それぞれが単独の話ではなく、共同編集による長編という形をとっているため、物語としてはちゃんとつながっているところがすごい。三人の監督の個性がぶつかりあう場面もあるという、そのメイキングを見てみたいものだ。
 3話オムニバスの共通点は、ヨーロッパを走る鉄道を舞台とすること。それ以外には特にしばりはなかったそうだ。本作は、作品の出来もなかなかのものだが、それ以上に、制作過程の話が面白いので、そのあたりがシネ・フィルの興味をそそると思われる。

 で、第一話は「木靴の樹」のエルマンノ・オルミ監督がメガフォンをとった。オルミの作品は見たことがないのでほかのものと比べようがないのだが、実に叙情溢れる淡々とした詩作、といったおももちの「画風」だ。
 知的で美しい中年女性に惹かれてしまう初老の大学教授の話。女性のちょっとした気遣いに心を動かされる教授。列車が駅を出るまでの短いひとときに交わした彼女との会話が忘れられず、列車内でも思わずメールを書こうとするのだが、その文章を書いては消し、また書いては消してしまう。教授はまだ少年だったころの頃の思い出と、さきほど別れたばかりの中年女性への想いを交錯させ、妄想の世界に遊ぶ。
 
 オルミの「筆致」は枯淡の味わい。この境地がわかるためには、それなりの人生経験を必要とするだろう。枯れきることのないエロスにためらいがちに燃え立たされる男のアンビバレンツな心情が憎いほど伝わってくる。

 2話目は「友だちのうちはどこ?」のアッバス・キアロスタミ監督の作品。これは大阪のオバタリアンもびっくりという超我が儘な中年女性のお話。太ったからだを揺らしてハァハァ言いながらよちよち歩く姿も滑稽で、彼女のド根性の悪さと傍若無人さにあきれ果てる。ところがこの映画には、ちゃんと面白い伏線があって、オバタリアンを泥棒よばわりしたオッサンが結局は彼女の荷物を運ぶのを手伝ってやったりという、ちょっとおかしなオチがついている。
 演じた女優はよく見れば美しい人で、体重を30キロ減らして歳を40歳若返らせたら相当な美女なのではなかろうか。将軍の未亡人という設定で、夫の一周忌の法事に出かける旅の途中なのだ。この彼女に罵詈雑言を浴びせられる従者の若者も可哀想だけれど、こういうおばさんは、痛い目に遭って自立しなきゃだめよ。
 なかなか人の心理の彩とか襞をうまく描いたシニカルな作品だった。

 3作目はわれらがケン・ローチがメガホンをとった。これがやっぱり一番素晴らしい。スコットランドからローマへとサッカーの試合を応援に行く若者3人の貧乏旅行、これが楽しげいいねぇ。ところが、偶然乗り合わせたアルバニア難民一家の少年に切符を盗まれたらしくて……

 これは脚本と演出が優れているので、極めてリアリティのある物語になっている。ユーモアもあり、ハラハラさせ、最後は爽快痛快! 思わず拳を振り上げてわたしも歌ってしまいそうになった。

 「施し」や「同情」は自分に余裕があるときならいくらでも可能だ。だが、我が身を犠牲にしてまで弱者に手をさしのべることができるだろうか? その大難問をつきつけられた若者3人の葛藤が手に汗握るスリリングな描写で活写されている。3人のスーパー店員が悩む悩みは、誰でもが心に抱くようなことだし、現にわたしはよくそういう葛藤や欺瞞に密かに苦しむことがある。「恵まれない人」への富者のほどこしは欺瞞ではないのか? と、この短い物語はこちらをギクリとさせてくれるのだ。
 それにしてもケン・ローチはやはり心の温かい人だ。劇場では感動して泣いていた人もいたというから、なかなかのものです。

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明日へのチケット
TICKETS 上映時間 110分 (イタリア/イギリス、2005年)
監督: エルマンノ・オルミアッバス・キアロスタミケン・ローチ