
物語の舞台は1930年代、一人の女性が少女時代を回想するという形式で進む。アラバマの暑いひと夏、子ども達が父の姿を見ることによって成長していく姿が瑞々しい。何よりも主役を演じた女の子がいい。お転婆で好奇心旺盛、そのくせ甘えん坊。
弁護士アティカス・フィンチが冤罪事件を担当する社会派作品かと思いきや、その事件そのものが物語の中心に据えられるまで1時間近くが経過する。前半は子ども達の物語だ。もちろん全編に亘ってスカウトという当時6歳の少女だった女性の独白が入るので、当然にも映画の視線は子どもの立場にあるのだが、実は映画には子ども目線と大人目線の二つが存在する。で、この映画は断然子ども目線のときがいい。近所に住む知的障害のある「ブー」という青年をめぐる冒険のハラハラ感がよく描けているし、この場面がラストに生きてくる。父を「パパ」と呼ばずに「アティカス」と呼ぶ兄妹たち、この時代にあり得ないぐらいリベラルな一家であることがよくわかる。
本作が大人の視点に変わるのは裁判シーンなのだが、ここは詰めが甘いと感じざるをえない。「それでもボクはやってない」のような白熱の裁判映画を見た記憶がまだ鮮明なので、それに比べればこの裁判の場面はリアリティが薄く、偽証を曝いていく弁護士アティカスの熱弁ももっと理詰めでぎゅうぎゅう言わせればいいのに、という不満が残る。だが、だからこそこの裁判の結果が「正義は勝つ」にならなかったわけで、社会の不正を描く映画のテーマとしてはこういう展開へと引っ張る必要があったのだろう。
裁判シーンでのグレゴリー・ペックの熱弁長広舌は、『JFK』でのケヴィン・コスナーのそれを思い出させた。というより、ケヴィン・コスナーがペックを意識して演技したのだろうな。
人種差別に苦しめられる黒人の苦悩を演じたブロック・ピータースといい、生き生きとした子役といい、演技陣がとてもいい。G.ペックは本作でアカデミー賞を獲った。貫禄の演技で信頼感溢れる父親を演じている。ただ、あまりにも「正義の人」すぎて近寄りがたいものがあるかも。
原題の『ものまね鳥を殺すには』の意味がこの映画ではそれほど生きていないのでは? 木の洞に物を隠してある場面が描かれるが、それが伏線として生きてくるのかと思ったがそうでもない。思わせぶりなわりにはちょっと肩すかしだった。わたしはトムの冤罪の証拠になるものかと思ったんだけどね。ここはブーと子ども達のからみとなる伏線だったわけだ。
セル盤には特典がないが、レンタルには1時間半もついているらしい。ちょっと見たい気もする。兄妹の友達が面白いキャラクターで笑えるのだが、この少年は原作者ハーバー・リーの幼馴染みトルーマン・カポーティがモデルだそうな。(DVD)
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TO KILL A MOCKINGBIRD
アメリカ、1962年、上映時間 129分
監督: ロバート・マリガン、製作: アラン・J・パクラ、原作: ハーパー・リー、脚本: ホートン・フート、音楽: エルマー・バーンスタイン
出演: グレゴリー・ペック、メアリー・バダム、フィリップ・アルフォード、ジョン・メグナ、ブロック・ピータース、ロバート・デュヴァル