
「ブラディ・サンデー」のような緊迫感あふれる作品を見た後では、スカみたいな映画。ちょっと見る順番が悪すぎたようだ。この作品とてベルリン国際映画祭で最優秀監督賞を受賞したのだから、それほど悪いものではなかろうに。イスラエル側から見た中東戦争というものへのわたし自身の不満というか偏見というか、アラブびいきの気持ちがある分だけ減点になったかも。途中で何度も寝てしまい、やっと3回目で全部見ました。
1982年から18年間レバノンを占拠していたイスラエル軍の占領の象徴たる前線基地、「ボーフォート」最後の日々、その撤退を描く。主人公は若きイスラエル軍兵士たち。彼らは一方的に敵の攻撃にさらされ、反撃もせず、ただひたすら要塞ボーフォートを守るのみ。敵の姿は一切見えず、時々爆弾が飛んでくるだけ。ヒューっという打ち上げ花火のような音が聞こえると、スピーカーからは「ばくげぇ~き」、爆発すれば「ちゃくだ~ん(着弾)」という牧歌的な声が自動的に流れる。実に淡々とどこかシュールでさえある。
若い兵士たちは、親元を離れて出征してきたことについて語り合い、「親は俺がどこにいるかも知らないよ」などとうそぶく者もいる。恋人のことや故郷のこと、若者たちはおしゃべりに余念がないが、その合間にも仲間は一人また一人と戦死していく。そんな日々を過ごすうち、とうとうボーフォート撤退の命令が出た。喜ぶ兵士達。
戦争映画のくせに戦闘場面がまったくなく、敵は現れず、爆弾がときどき着弾するだけという地味な作品。それなのにやはり味方は死んでいく。それは静かな戦争の悲劇だ。敵は「ヒズボラ」。
この映画では、そもそもなんでイスラエル軍がヒズボラと戦っているのか、なぜレバノンを占拠しているのか、そういった説明は一切ないので、予備知識がなければ何がどうなっているのかさっぱりわからないだろう。逆に、予備知識があるとそれなりに興味深い一方で、ヒズボラが目に見えない不気味な敵としてだけ描かれていることに大きな不満を感じてしまう。だが、イスラエル軍兵士にとってヒズボラとはそのようなものなのだろうということがよくわかって、「なるほど」とは思う。
兵士たちが話題にするのはアラブとイスラエルの対立といった中東戦争の政治的側面などではなく、恋人や家族の話だ。彼らにとってはこの戦争がなんのためのものなのか、それすらもはや無関心なのだろう。長引いた戦争は兵士たちに戦う大義を見失わせ、厭戦気分を蔓延させる。山の頂にある古い要塞に籠もっている兵士たちが通る通路は狭く、画面全体に閉塞感と倦怠感が漂う。撤退戦とは敗退なのだから、兵士の士気が上がらないのは当然で、現場の指揮を任された若い隊長は上からの命令と下からの突き上げに挟まれて苦悩する。彼らにとって戦争とはなんだったのだろう? やっとの思いで撤退したその後、兵士の胸には安堵とともに空しさがこみ上げる。その胸中に去来するものは帰還の喜びなのか、亡くなった仲間への自責の念なのか……。
戦争の空しさは確かに伝わるけれど、緊張感に乏しく冗長な編集なのでけっこう退屈。(レンタルDVD)
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ボーフォート -レバノンからの撤退-
BEAUFORT
イスラエル、2007年、上映時間 127分
監督・脚本: ヨセフ・シダー、製作: デヴィッド・・マンディル、音楽: イシャイ・ハダー
出演: オシュリ・コーエン、イタイ・ティラン、オハド・クノラー、アミ・ワインバーグ、アロン・アブトゥブール