吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

王の男


 李氏朝鮮史上悪名高い王ヨンサングン(燕山君)が寵愛した芸人が宮廷の陰謀に巻き込まれていく、エンタメ心たっぷりのスリリングな物語。

 食うや食わずの貧しい芸人二人組のチャンセンとコンギルが、都へ出て大衆的な仮面劇で人気を博し、やがて宮廷に召抱えられる。ここまでのスピーディかつ滑稽でカラフルな展開は、これぞ映画という醍醐味たっぷり。なかなか楽しい。しかもコンギル役のイ・ジュンギが切れ長流し目の美形ときてるから、韓国ではオバサマたちが大騒ぎだそうな。しかし、このイ・ジュンギがいまいちわたしの好みとは違うのだな。ただし、彼のぽっちゃりした唇はたいへん色っぽくて可愛くてよい。奪ってしまいたいっ。とか思う御仁も多かろう。

 この映画に描かれている農楽や仮面劇のような朝鮮の伝統的民衆劇が物珍しいかどうかで映画の評価にも影響を与えそうだ。わたしにはこういう大衆芸能が珍しくはないし、映画の中で役者たち(とスタント)が演じる芸もそれほど驚くようなものではない。あれに比べれば上海雑技団のほうがずっと腕は上だ。後、朝鮮の劇だけではなく、京劇の真似事が登場する。こちらのほうはなかなか色鮮やかで目を見張るものがあった。映画全体の魅力の半分以上が彼らの演じる芸にあるわけだから、ここが魅力的でなければ興醒めなのだ。たぶん、日本の多くの観客にとっては物珍しく面白いのではなかろうか。

 そして、もう一つの見所は、宮廷内の権力闘争に芸人たちが巻き込まれていくところだ。王の寵愛を受けて出世していくコンギルと、それをよく思わないチャンセンとの葛藤が大きなドラマとなる。狂王と呼ばれた燕山君(ヨンサングン)にしても、偉大すぎる父王と何かと比べられるコンプレックスや、幼い頃に母を亡くしたトラウマがマザコン王を生んでしまうという人物造形上の由来もきちんと描かれていて、またそういう要因がドラマのクライマックスの大きな伏線となるあたりも映画的で面白い。ただ、物語全体の構造は極めてシンプルでそれは少し物足りない。

 一介の芸人が芸の魅力と美貌で宮廷でのし上がっているさまは痛快だ。と同時に、それを潔しとしない反権力魂を捨てないチャンセンの根性に胸すく思いがする。

 
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122分,韓国、2006年
監督: イ・ジュンイク、製作総指揮: キム・インス、原作: キム・テウン、脚本: チェ・ソクファン、音楽: イ・ビョンウ
出演: カム・ウソンイ・ジュンギ、チョン・ジニョン、カン・ソンヨン