吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

エトロフの恋

エトロフの恋
島田 雅彦著: 新潮社 : 2003.9

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『彗星の住人』から『美しい魂』へ続き、そして完結編が本作。といいたいところだけれど、島田センセイ、これ完結してないじゃないですか!

 ♪ここは地の果てエトロフのぉ~(そんな歌あったっけ?)まで来たのに、カヲルの「男の更年期」にも付き合ったのに、ああそれなのに、ここまで読者を引っ張りながら終わらせないなんてズルイ。

 またまたこの三部作の作風の豹変ぶりには驚かされる。今度はカヲルの一人称物語。50歳を超えたカヲルは渋みと陰翳を加え、人生の敗残者の悲哀を背負って地の果てエトロフまで流れてきた。

 永遠の恋人不二子の影を慕い、アメリカに残してきた妻子の面影を懐かしみ、ロシアの巫女に癒され、死に体のカヲルは再生への道を追い求める。エトロフという、憂鬱と寂しさが凍りついたような島の風景が、人生をとうに折り返した男カヲルの心象風景と重なって、中年以上の読者には胸に迫るものがあるだろう。

 これまでにもまして作者の影が主人公カヲルに濃厚に付きまとうように思える。おそらく多くの部分でカヲルは島田雅彦なのではなかろうか。

 三部作がそれぞれ色合いの違うこの「無限カノン」、第一作が波乱万丈の大河物語、第二作が美しい純愛物語、第三作がニューエージもの。エンタメ的には第一作が最もおもしろかったが、恋人の姿が現れない本作も、ベールを被った恋愛小説の渋さが漂い、なかなかのもの。

 『美しい魂』のときも皇室をまともにモデルにしながら天皇制の評価については深入りを避けたように、今回も「北方領土」を舞台にしながら外交や政治の話は遠くでかすかに聞こえてくるだけのさらっとした叙述にとどめている。これは存外、物語を成功に導いている。

 本作をもって完結とはこれいかに。わたしは納得できません。島田センセイ、早く続きを書いてください。お願ひ。(つづく…を期待するファン)(bk1)