吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ニノチカ


 これは面白い! 欲を言えばニノチカは前半のあのキャラのまま最後までいってほしかったなぁ。グレタ・ガルボに笑顔は似合わない。むすっとしているときの美しさは絶品です、まさに氷の美貌。最後まで笑わないでほしかったわ。


 この映画を単なる反共映画として片づけるわけにいかない理由は、ロシアの亡命貴族夫人よりもグレタ・ガルボ演じるゴリゴリの共産主義者のほうに観客が共感するからだ。

 帝政時代の貴族の宝石を没収したソビエト政府は、宝石を外貨に換金すべく貿易委員会の委員3人をパリへ送り出した。へなちょこ3人組は「シベリア送りになるぞ」とか怯えながらもパリの高級ホテルのロイヤル・スイートルームに投宿し、毎晩贅沢三昧な生活に浸っていた。なかなか商談が進まないのに業を煮やした本国から、お目付役のニノチカという女性が送り込まれてくる。お堅い共産主義者ニノチカは、三人が退廃的資本主義文化に毒されていることに眉をひそめるが、宝石の元の持ち主である大公夫人の恋人と出会い、一目で恋に落ちてしまう。鉄面皮のニノチカがおしゃれで浮気なパリ男と交わす丁々発止の「愛の言葉」が掛け合い漫才よりも面白い。ビリー・ワイルダーの脚本力全開です。

 この映画の面白さは、ロシア人とドイツ人を間違えるというエピソードからもわかるように、スターリニズムとナチズムを同時に批判する社会批判の視線が鋭いことと、「自由主義」社会への皮肉や批判も忘れていないことだ。亡命先のパリで贅沢に暮らす大公夫人の高慢ちきさは鼻持ちならない。「わたしの宝石を返してちょうだい」という彼女に対峙してニノチカは言う、「宝石は人民のものよ」。ニノチカが奉じる共産主義思想の根本の「正しさ」をニノチカの口を通して聞き、観客は納得する。と同時に、彼女の本国での息詰まるような共同生活や検閲など、自由のない国の惨めさもまた皮肉な笑いの対象となる。

 ニノチカが恋した相手は大金持ちの貴族だが、彼もまた真実の愛に目覚めてニノチカの思想を少しでも理解しようとするところがいじらしくも笑える。

 決して笑わない氷の女が初めて大笑いするシーンはなにか面妖なものを見る思いがしてのけぞってしまった。グレタ・ガルボが笑ったらあんな顔になるんだ! 美貌が台無しやんか! 氷の女の氷が溶けて、恋する柔らかな女になってしまったのはちょっと残念。あのキャラのままで恋する女を演じることはできないのだろうか? いや、それでは愛は国境を越える、愛は思想を超えるというこの映画のテーマにそぐわない。やはりこれでよかったのかも。(レンタルDVD)

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NINOTCHKA
アメリカ、1939年、上映時間 110分
製作・監督: エルンスト・ルビッチ、原案: メルキオール・レングィエル、脚本: ビリー・ワイルダーチャールズ・ブラケット、ウォルター・ライシュ、音楽: ウェルナー・リヒャルト・ハイマン
出演: グレタ・ガルボ、メルヴィン・ダグラス、アイナ・クレアー、ベラ・ルゴシ、シグ・ルーマン