吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

大誘拐 RAINBOW KIDS


 舞台が和歌山、というのがいい。日本のチベット、和歌山。紀州の山奥を舞台に繰り広げられる珍誘拐劇には胸がすくやら笑うやら切ないやら。いやぁ、これ、とってもいいです。

 和歌山一の大富豪である柳川とし子82歳が身代金目的で若者3人に誘拐された。しかし、柳川刀自(おばあちゃんの敬称)は、自分の身代金が5000万円であることを知って激高し、「100億円を要求しなさい! びた一文まけられません!」と犯人達を威圧する。果たして、若造3人はこのおばあちゃんにいいように手玉にとられることに。いったい、誘拐事件は犯人たちの犯行なのか柳川刀自の犯行なのかさっぱりわからないことになってしまい……

 という、コメディ。今から15年以上前に製作されているから、緒方拳も若いし、竜雷太なんて懐かしかったわぁ。竜さんとはNHKドラマ「和っ子の金メダル」の打ち上げパーティで会っただけだが、そのときのイメージそのままで登場(当たり前、あの打ち上げをやったのは90年春だった)したので、実に懐かしかった。風間トオルもイケメンの甘いマスクです。最近見かけないけど、どこでどうしているのかしら? あ、失礼しました、テレビでご活躍のようです。今は亡き景山民夫もゲスト出演している。とにかくなんだか懐かしい映画だ。 

 まぁ、そういう、作品の出来とは関係ない個人的な懐かしさは措いとくとしても、この映画はたいへん面白い。まさに「巻き込まれ型」犯罪の被害者になったにもかかわらず、そこを逆手にとって若造を手玉にとる刀自の迫力はすさまじい。82歳まで生きれば怖いものなしなのか、柳川刀自の肝の据わりっぷりには感嘆する。しかも彼女は自分が培ってきた地域のコネクションを最大限に利用するところがエライ。これは舞台が日本のチベット紀州の山奥であるからこそ成立するゲマインシャフト(共同体)の有効活用の図である。ちなみにわたしの父の実家もこのあたりなので、地名には見覚え聞き覚えのあるところがたくさんあり、たいそう懐かしい。

 警察の捜索劇もなかなかのお手並みであり、さらにその上をいく柳川刀自の賢さと機転には脱帽ものだし、手玉にとられた若者たちの初(うぶ)さも可愛い。刀自に忠誠を尽くす元使用人役樹木希林の可笑しさ巧さはもちろん爆笑もの。財産狙いで汲々とするかと思った刀自の子どもたちも意外と母親思いであり、とにかく本作にはまったく悪人が登場しない。マスコミを利用した劇場型犯罪というのもなかなか新しい(今では新しくない)し、しかもそれを82歳のおばあちゃんがやってのけるところがお見事でした。

 して、最後に柳川刀自の本音が聞けるところでほろり。この映画は、巻頭が8月15日である。そう、敗戦記念日かつお盆の最中。柳川刀自は戦争で年若くして亡くした3人の子ども達の位牌に向かって拝んでいる。このシーンが巻頭に措かれたことの意味を最後に観客は知る。単なる痛快犯罪劇ではなかったのだ。「お国とは何なのか。子どもたちの命を奪い、わたしの財産まで奪うお国とは何なのか」。刀自のつぶやきは重い。

 北林谷栄はもちろん熱演好演怪演、最高です。この作品でこの年の日本アカデミー賞主演女優賞受賞。あ、まだ生きています! もう97歳!

 愉快痛快、大笑い。しかも最後に、年老いた母親の反国家の思いを知ってほろりと来る秀作。



 ところでこのDVDジャケット、向かって左側が緒方拳、右が北林谷栄ですが、合体させるとなぜか竜雷太に見えません? え、見えない? わたしだけ?(^_^;)

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日本、1991年、上映時間 120分
監督・脚本: 岡本喜八、製作: 岡本よね子ほか、原作: 天藤真、音楽: 佐藤勝
ナレーター: 寺田農
出演: 北林谷栄風間トオル内田勝康、西川弘志緒形拳神山繁水野久美岸部一徳、田村奈巳、天本英世本田博太郎竜雷太嶋田久作常田富士男橋本功樹木希林山藤章二景山民夫