吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

硫黄島からの手紙


 硫黄島二部作、これは構成もテーマも「父親たちの星条旗」のほうが2ランクぐらい上だ。「手紙」のほうはふつうの良作。「星条旗」はそれに比べれば傑作と言っていいだろう。

 アメリカ人が描くアメリカの戦争映画に英雄は必要なかったが、アメリカ人が描く日本の戦争映画には英雄が必要だった。そのことがこの二作の決定的な差異を生んだ。

 アメリカが戦争にまつわる言説を批判するとき、英雄物語を脱構築する必要があったし、戦後の苦しみを描かなければならなかった。そしてその英雄達が戦った相手について真正面から向き合おうとしたとき、顔も名前も見えない日本兵が同じ人間であることをアメリカ人に理解させるためには、日本人の中にも英雄がいたことを強調する必要があった。それゆえ、この二作は同じ硫黄島の戦いを描きながら作品の質もテーマも異なるものとならざるをえなかったのだ。

 アメリカ人がよくここまで日本映画を監督できたものだと感心する。と同時に、これがアメリカ人の撮る日本映画の限界なんだろうと思う。その限界が二部作の出来の落差に結果した。アメリカ人に日本の戦争を理解させるために物語をシンプルにし、合理的で温情な将校を登場させる。しかも彼らは知米派・親米派で英語を自由にあやつれるのだ。本作は、アメリカ人のプライドを温存しアメリカ人を安心させる作風であったがためにアメリカの批評家から高く評価されたのだろう。

 ところで、俳優について。特筆すべきは二宮和也だ。元パン屋の一兵卒を演じた彼の存在感は圧倒的だ。実にうまい。いい役者になるだろう。

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LETTERS FROM IWO JIMA
141分、アメリカ、2006年
製作・監督: クリント・イーストウッド、製作総指揮: ポール・ハギス、原作: 栗林忠道 『「玉砕総指揮官」の絵手紙』、脚本: アイリス・ヤマシタ、音楽: クリント・イーストウッド
出演: 渡辺謙二宮和也伊原剛志加瀬亮中村獅童裕木奈江