
全編ビートルズの曲だけで作ったミュージカル。このアイデアが優れものだったね。ビートルズの曲だけで60年代を表現することは可能だが、たとえばこれをエルヴィス・プレスリーの曲だけでやろうとしたら不可能だろう。それだけビートルズの楽曲には「世界」が歌い込まれているということなのだ。改めて、ビートルズの曲に歌われた哲学や世界観の深さに感心する。
ストーリーありきなのか、ビートルズありきなのか、これはどう考えてもビートルズありきなのだろう、だからこそ、登場人物たちの台詞がそのまま自然とビートルズの曲につながっていく。主人公の名前がジュードとルーシーというからには当然"Hey Jude"と"Lucy in the sky with diamonds" が出てくるに違いない、どこでどのような形で?!とわくわくしながら見ていたものだ。
物語はイギリス、リヴァプールから始まる。造船労働者のジュードがまだ見ぬ父を求めてアメリカへと渡るところから物語は動き始め、ジュードがプリンストン大学へと行き着くところから物語は心地よいテンポで展開する。絵の作りは、この映画の時代と同じく「サイケ」がキーワード。ミュージカルとはいえ、ダンスにはそれほど重きを置いていない本作では、もっぱら歌と映像のポップアートぶりが見せ場となる。アンディ・ウォーホールを思わせるようなカラフルな画面が続いたかと思うとLSDでラリっているような天然色(古い)のイメージ画像が爆発し、それはもう鮮やか艶やか、目が痛い。このあまりにもめまぐるしく弾けた映像が続く場面でちょっとわたしは息切れしてしまった。
とはいえ、こういう場面は映画ならではの面白さであり、舞台ミュージカルでは堪能できない魅力だ。歌もまた、役者が全部吹き替えなしで歌い、ライブ録音で歌っているという(劇場用パンフレットより)。なんと言っても迫力満点はジャニス・ジョプリンをモデルにしたと思われるセディ役のデイナ・ヒュークス。
使用された全33曲にはそれぞれ演出が付いているのだが、わたしがもっとも気に入ったのは徴兵検査の場面で"I want you"が流れるというアイデアとその奇抜なダンスだ。高校の世界史の教科書や参考書にも載っていた、「アンクル・サム」が志願兵を募集する有名なポスター。まさに"I want you"ではないか! (あのポスターはもともと第1次世界大戦のときのものだったと思うけど)
60年代、NYグリニッジ・ヴィレッジ、前衛芸術、ベトナム反戦、学生運動、ヒッピー、カウンターカルチャー、若者達の文化の爆発がこの映画ではそっくりその雰囲気が再現されている。と同時に、それが単なるノスタルジーではなく、21世紀の今にも通じるビートルズの歌詞の数々が、今またイラク戦争を止めないアメリカの現状への痛烈な批判となって跳ね返る。
この映画の素晴らしいアイデアは一発勝負ものかもしれない。柳の下の二匹目のドジョウは真似しにくいのではなかろうか。本作は、ビートルズファンなら必見。ビートルズのさまざまなエピソードが映画全体にちりばめられていて楽しい。そうそう、ジョー・コッカーも3役で出ています。
映画の解説について、粉川哲夫さんのサイトがとても参考になった。
http://cinema.translocal.jp/2008-04.html#2008-04-30_2
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アクロス・ザ・ユニバース
ACROSS THE UNIVERSE
アメリカ、2007年、上映時間 131分
監督: ジュリー・テイモア、製作: スザンヌ・トッドほか、製作総指揮: デレク・ドーチーほか、脚本: ディック・クレメント、イアン・ラ・フレネ、音楽:エリオット・ゴールデンサール
出演: エヴァン・レイチェル・ウッド、ジム・スタージェス、ジョー・アンダーソン、デイナ・ヒュークス、マーティン・ルーサー・マッコイ、T・V・カーピオ、
ジョー・コッカー、ボノ