吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

フィクサー


 緊迫感に満ちた病的な男性の独白で始まる巻頭、「いったい何が始まったのだろう? この映画はどういう話なの?」と不安と緊張感がみなぎる。このオープニングを見たときに、「これは脚本と監督が同じかまたは脚本にかなり監督の指示が入っているな」と直感した。案の定、監督も脚本もトニー・ギルロイだと知ったのは後からだが、さすがは「ボーン・アイデンティティ」シリーズの脚本家だけあって、素晴らしい。映画ファンが喜ぶこの構成にはわくわくものだが、残念ながら途中で緊張感が途切れて、わたしは2箇所ほどついうとうとしてしまった。なぜ最後までこのピリッとした演出が続かないのか、残念だ。物語の構造じたいにそれほど複雑なものがなく、無理やりに回想シーンへと飛ばして時間軸を複雑に見せたのはいいけれど、回想場面が「現在」に戻ったときにパズルがピタっとはまらなかったようだ。この点について「映画瓦版」の服部弘一郎氏がうまく解説していたので思わず膝を打った。

http://www.eiga-kawaraban.com/08/08011001.html

 さて、物語は…。
 全米でも超一流のファーム(法律事務所)に勤めるもみ消し専門の弁護士がマイケル・クレイトン(ジョージ・クルーニー)だ。彼は法廷に立つことのない「裏仕事専門」屋である。その腕は確かだが、裏稼業であることは間違いない。妻とは離婚し、小学生の息子にときどき会える程度。サイドビジネスとしてレストランを開業する夢を実現したのはいいけれど失敗し、借金に追われる彼は、高級車を乗り回しているがそれは実は事務所のリース車である。

 高給取りの弁護士のはずが借金まみれの惨めな生活、ということろにクレイトンの悲哀がある。その悲哀をますます渋みが増したジョージ・クルーニーが好演している。その好演を上回る演技でアカデミー賞を受賞したのがティルダ・スウィントン。彼女は農薬会社の法務部長というエリート弁護士役を演じる。いかにも神経質そうなキャリア・ウーマンの雰囲気をそのものズバリに演じた。演技力もさることながら、元々のキャラクターがそのような雰囲気を持っているのであろう。

 ストーリーは農薬被害をもみ消そうとする大会社の陰謀と、それに加担していた弁護士たちの暗躍と翻意と混乱とを描く社会派ものだが、謎に満ちたサスペンスものでもないため、緊張感にいまいち欠けてしまう。本作は謎解きを面白がるような映画ではないのだ。役者たちの演技力と渋い演出でジワジワと観客を引き込んでいく通好みの作品。登場人物たちのリアルな疲れ具合といい、正義の味方なのか金の亡者なのかよくわからない主役クレイトンの魅力といい、大人向きの作品である。

 娯楽作には違いないがかといって大ヒットを期待できるような出来映えでもない。なんだか中途半端な評価だけれど、わたしは楽しんだ。最後の意趣返しもよかったしね。渋好みの映画ファン向けの映画なのでそのつもりでどうぞ。

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MICHAEL CLAYTON
アメリカ、2007年、上映時間 120分
監督・脚本: トニー・ギルロイ、製作: シドニー・ポラックほか、製作総指揮: スティーヴン・ソダーバーグジョージ・クルーニーアンソニー・ミンゲラ、音楽: ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演: ジョージ・クルーニートム・ウィルキンソンティルダ・スウィントンシドニー・ポラック、マイケル・オキーフ、デニス・オヘア、ジュリー・ホワイト、オースティン・ウィリアムズ