吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

タイヨウのうた


 わたしの友人の姪御さんがXP(色素性乾皮症)の患者で、ぜひこの映画を見て欲しいとだいぶ前に言われていたのでずっと気になっていた。このたびようやく見ることができたが、正直言って最初は「またお涙頂戴の難病ものか」とうんざりする気持ちがあったのだ。もちろん患者や家族の苦しみを思えば「うんざり」などというのは不謹慎極まりないのだが、映画の作り方としてはあまりにも安易だと思える。だが、この映画は「お涙頂戴」ものではなかった。悲しい話なのに後味が爽やかだ。

 16歳の少女薫はXPという難病のために学校へ行けず、昼は寝て夜に外を出歩き、ストリート・ライブでギターの弾き語りを続ける生活をしていた。彼女は太陽光線に当たると死ぬという病気に罹って幼い頃から外へ出て行けないのだった。たとえ太陽に当たらなくてもいつかは神経症状が出て死んでしまうというXP患者の薫は大人になるまで生きられないと医者に宣告されていた。そんな彼女が毎日窓から外を眺めているうちに、サーフボードに夢中になっている男子高校生に恋をした…。

 本作のテイストは爽やかな青春もの。当たり前に恋をしてつきあえるはずの少年少女が、病気ゆえに壁にぶちあたる。だが、少年は少女のために必死にバイトをして、彼女のCDを自主制作してやろうとし、精一杯の誠意をみせる。

 少女は少年に恋をし、全力でぶつかって告白し、けれどやっぱり自分の身の上を思って少年から離れて行こうとし、だけど少年の誠実な愛によって固くなった心をほぐし……。と、薫の気持ちはお気軽にころころと動くように思えるが、歌という生き甲斐と、少年の愛情を支えに全力で生きようとする姿勢が共感を生む。

 XP患者家族の会のHPによれば、この映画で描かれたXPの症状は実際とは異なる点があるらしいし、映画では病状についてほとんど説明しないので、病気に対する理解という点では不満が残るだろう。けれど、くどくどしく病状を描かなかったことが「きれい事」のようでもありまた逆にお涙頂戴に堕さなかったよさでもある。

 薫の死が決して涙で受けとめられるだけのものでないのは、彼女が歌を遺したからだ。創造する者は幸せだ。歌という才能を持った薫は死んでも人々に歌を残し、幸せを送り届けることができる。なんの才能もなくただひっそりと死んでいくだけがふつうの、ほとんどの人の人生だというのに、若くして死ななければならなかった薫は才能に恵まれた幸せな人生だったのではないか? と、才能のない人間は軽い嫉妬とともにそう感じてしまうが、薫は「ただふつうに生きたいだけなのに」と呟く。昼間の太陽に当たることもできず、学校にも行けず、大人になる前に命を落とす人生ならば、すべての才能と引き替えてもふつうのありきたりの人生を送りたいと願うだろう。

 人の幸せってなんなのだろう、と考えてしまった。(レンタルDVD)

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日本、2006年、上映時間 119分
監督: 小泉徳宏、製作: 久松猛朗ほか、製作総指揮: 迫本淳一、脚本: 坂東賢治、音楽: YUI、椎名KAY太
出演: YUI、塚本高史麻木久仁子岸谷五朗通山愛里田中聡元