吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

「ソラリスの陽のもとで」の新訳が出た

 これは旧訳よりかなりいい。実をいうと旧訳本の印象はあんまり残っていないのだが、前に読んだときよりもかなり感動しながら読んだ。訳がいいのだろうか? 旧訳はロシア語版からの翻訳で、新訳は原典ポーランド語版からの訳出だから、原典に近いのだろう。ロシア語版で削除されていた部分も復活してあるし。

この作品に関してはタルコフスキー監督「惑星ソラリス」→ソダーヴァーグ監督「ソラリス」→旧訳『ソラリスの陽のもとで』→新訳『ソラリス』という順に鑑賞したが、いずれも標準以上に素晴らしく、とりわけタルコフスキーの映画は震える思いで見た覚えがある。DVDも買ってしまったし。
新訳本を読んだのを機会に、買ったまま未見だったDVDをもう一度見たい。

繰り返しのきかない決定的な過ちに再び遭遇したときの人間心理と倫理はいかにあるのか? そして、愛はそもそも何に向かうものなのか? 幻影を愛することはできるのか? 無意識の奥底に仕舞っておきたいものと遭遇させられるとき、人はいかようにその試練に耐えるのか?

本書のテーマは実に興味深い。多用な解釈を生む心理劇であり、かつ「科学」への懐疑と畏敬を含む作品だ。

この作品は、映画版ほどにはそれぞれのテーマが深められていないのだ、実は。タルコフスキーの理解もソダーバーグの理解もクリアで、原作からそれぞれの解釈を抽出し、原作以上に感動的に呈示している。

本書は巻末の訳者解説も充実していて、ほんとにお奨めだ。
これによると、原作者レムは、映画化された二作品ともに不満だったらしい。
でもねえ、そんなのは読者の勝手でしょ、とわたしはいいたい。
タルコフスキーの解釈もソダーバーグの解釈も、どちらもいいじゃないの。
それに不満を表明するなんて、原作者の特権とは言い難いと思うのですが、いかがでしょーか。

 ※映画「惑星ソラリス」評と映画「ソラリス」評はシネマインデックスから探してお読みください。

<書誌情報>

ソラリス / スタニスワフ・レム著 沼野充義訳 国書刊行会 2004