
スペインで開かれる国際会議の場で、アメリカ大統領が暗殺された! その場面を8人の視点から繰り返し眺めてみると…。
同じ場面を巻き戻しながら何度も見さされるなんて苦痛かも、と思いきや、これが意外や意外、とても面白くてのめりこんでしまう。主役はだいぶ老けて渋みが増したデニス・クエイド、彼がシークレット・サービスのトーマス・バーンズを演じます。最初はテレビ局が映し出す何台ものカメラで捉えた映像、次はトーマス・バーンズの視点からの画(え)、次はスペインの警官、次はアメリカ人観光客…と順にめぐり、主な登場人物4人が終わってしまった。さて、次は誰の視点なんだろう? と思っていると、どんどん話は意外な方向に展開していく。8人の視点で同じ場面を繰り返すとはいうけれど、それぞれしか知らない情報がそこには描写され、謎が投げ出され謎が深まりまた謎が回収されていく。
この着想はお見事でした。黒澤明の「羅生門」的な構成だけれど、「羅生門」のように登場人物の証言が食い違うというのではなく、8人それぞれが断片的に知っている情報をつなぎ合わせると事件の真相が明らかになるというかたちをとっている。ふつうはこういう物語の場合、8人の登場人物それぞれの事情を時系列につなぎ合わせていくのだが、この映画ではそういう手法をとらずにあえて暗殺事件前後の23分間を一人の人間に焦点を絞って何度もまき直すという方法をとったことが斬新で面白い。大統領暗殺という衝撃的な事件の真相を追うというサスペンスものを作るために法廷での証言集のようなプロットを持ってきたところが優れもののアイデアだ。しかもそれをスピーディに展開させたのがいい。最後のカーチェイスもものすごい迫力。ただしこのカーチェイスがめまぐるしすぎてしまいには目が痛くなった。
とはいえ、見ている間は興奮して面白がっていたこの映画だけれど、見終わってふと冷静になると、いくつも辻褄の合わないところや、あまりにも説明不足の点が思い起こされてしまう。何より気になったのは、全方位外交的にすべてのコードをクリアさせるべくいろいろ気を使った展開(人種コード、テロ対立コード、平和コード)なのに、結局はアメリカ人が喜びそうな結末に落ち着かせたところ。アメリカ人はたとえ一旅行者といえどもヒーローなのに、スペイン人は警官がひどい扱いをうける。これって「差別」じゃないの?
テロリストたちの用意周到な暗殺計画で武器となるのは小型のハイテク・リモコン。携帯電話のようなものを持ったテロリストが次々と爆破現場をリモートコントロールする。だが、完璧のはずのその計画に綻びが出る原因はまた「リモートコントロールされた視点」、つまりカメラだ。テレビ局のカメラ映像が偶然捉えた事件の真相につながる場面もしかり、旅行者が偶然捉えたハンディカメラでの場面もしかり。
今や、街のあらゆるところにカメラがあり誰もがビデオカメラを手にできるようになれば、犯罪も目撃される可能性が高くなる。ハイテク機器に頼ったテロが同じくハイテクカメラの目を逃れることができず、最後は一人の男の捨て身の追跡によって阻止される。機械対人間、身体対身体、宗教対宗教、戦争対平和。この映画にはいくつもの対立点が示されている。しかし、90分という短さにしぼった展開だったため、そういう面白げな背景は深く顧みられることはない。
娯楽作としてはたいへんよく出来ている、お奨めの一作。あんまり深く考えないほうがいいのかも。
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VANTAGE POINT
アメリカ、2008年、上映時間 90分
監督: ピート・トラヴィス、製作: ニール・H・モリッツ、脚本: バリー・L・レヴィ、音楽: アトリ・オーヴァーソン
出演: デニス・クエイド、マシュー・フォックス、フォレスト・ウィッテカー、サイード・タグマウイ、エドゥアルド・ノリエガ、シガーニー・ウィーヴァー、ウィリアム・ハート