吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ダーウィンの悪夢


世界第2位の大きさを誇るアフリカ中東部のヴィクトリア湖。そこで起きている生態系の破壊と人間生活の破壊を記録した驚くべきドキュメンタリー。

 50年前、ちょっとした気まぐれでヴィクトリア湖に放流された「ナイルパーチ」という大型の肉食魚が、あっという間に在来種を食いつくし大量繁殖した。とにかくでかい。水揚げされたナイルパーチの大きさは2メートルにもなる。そしてこの魚肉が美味で加工がたやすいことから、湖の周辺には魚加工工場が建設された。輸出先はEUと日本だ。日本では数年前まで「白スズキ」という名前でスーパーなどに出回っていた。現在では切り身は弁当や外食産業で使用され、スーパーでは加工品が「西京漬け」などの名称で売られているという。

 ダーウィンの箱庭と呼ばれた在来種の宝庫だったヴィクトリア湖の生態系が破壊されるにとどまらず、湖の周辺には職を求めて大量に流入してきた人々があふれ失業者となり、売春婦が集まり、ストリートチルドレンが徘徊する下層社会が形成された。貧困、粗末なドラッグ、エイズが蔓延する社会。

 カメラが映し出すヴィクトリア湖周辺の情景はすさまじい。何百万匹も捨てられたナイルパーチの頭やアラが画面にいっぱいにどす黒く映し出される異形の不気味さにはぞっとする。魚のアラが発生させるアンモニアガスによって眼球が溶けてしまった女性がインタビューに答える姿にも驚く。

 カメラに映し出されるうんざりするような暗い光景は、映像がもつ説得力というものを感じさせる。確かに描かれていることはすさまじいのだが、インタビュー場面のつなぎかたなどは工夫がなく、ついつい眠くなる。映し出される「事実」は驚くべき絵を描いているが、映画としては面白くない、という妙なことになっている作品だ。

 グローバリゼーションがヴィクトリア湖周辺に住む人々から潤いを奪った。一部の人たちは確かに豊かになっただろうが、そうでない人々をも大量に生み出した。何よりも親のいない子どもたちの姿に心が痛む。貧しい食事を奪い合い殴り合う姿や、魚の梱包剤を燃やした煙から成る粗悪なドラッグで飢えと恐怖を忘れて眠る姿には絶望しか感じられない。しかし、だからといってナイルパーチを先進国が消費しなければもはやさらに大量の失業者を生むだけなのだ。この出口の見えない状況をどうすればいいのか? 

 さらに映画は魚肉をヨーロッパに運ぶ飛行機のパイロットたちにインタビューして驚くべきことを聞き出す。いや、もう何があっても驚かないよという感じ。

 この映画を見終わって思わず『グローバリゼーション』という大学生向けの本を読んでしまった。

 本作を見た後で梶ピエールさんのブログを読み、アフリカ関係研究者からこの映画への批判があることを知った。↓をお読みください。グローバリズム問題に解消できないことがあるし、この映画が都合のいい部分だけを切り取ったり事実を歪曲している点があり、何よりも現地の視点がないことが批判の対象になっている。
http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20070223

 この映画の画面から受けるインパクトの強さに比べて見終わった後すっきりした気分になれなかったのはなぜなのか、梶ピエールさんのブログを読んで膝を打った。これは単に描かれている問題が重くて解決困難だからすっきりしなかったのではない。この映画には「白人の重荷」(@梶ピエール)の危うさが現れているからなのだ。


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ダーウィンの悪夢
DARWIN'S NIGHTMARE 上映時間 112分(オーストリア/ベルギー/フランス、2004年)
監督・脚本: フーベルト・ザウパー