吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

サルバドールの朝


フランコ独裁政権末期の1974年に処刑された25歳のアナキスト、「イベリア解放闘争」の闘士サルバドール・ブッチ・アンティックの物語。

 これまた期待が過ぎたせいか、この映画はよろしくない。サルバドールが警官を殺す事件までの説明が1時間。これがあまりにも冗長で説明口調が過ぎて退屈してしまう。おまけに反体制運動といってもやってることは銀行強盗ばかり。強盗と銃撃戦のドンパチが続くと、ヤクザ映画とどこがちがうねん、という気持ちになってくる。サルバドールが死刑判決を受けてから巻末までの40分以上はさすがにきりっと締まってきて画面に引き寄せられたけれど、それにしてもやっぱり<最期の12時間>の描写が長い。情感に流れて緊迫感に欠けるから長さが苦痛になってくる。

 見所は最後の処刑のシーンだけかも。信じがたいほどの残虐な方法での死刑には思わず目を背けてしまう。が、処刑の方法についてはもしこの通りなのだとしたら今の日本よりよほど情報開示が進んでいるといえよう。日本では死刑囚の処刑情報が事前に漏れることはなく、家族にも被害者の遺族にも知らされないし、当の死刑囚にも処刑の直前まで処刑日時は知らされることはない。

 この映画で見られるような処刑の方法といい、捜査のいいかげんさといい、死刑反対論の盛り上げには貢献すると思うが、いっぽうで、サルバドールが警官を殺したことは事実に違いなく、決して「冤罪」というわけでもない。本作はサルバドールたちの思想の掘り下げにはまったく熱心ではなく、ただ事実を劇画的に追うだけであり、後半に至ってはお涙頂戴に流れてしまっている。しかも泣けない。看守との心の触れあいという設定だけは心を動かされたが、これによって感動させられるのは看守を惹きつけるサルバドールの魅力よりもむしろサルバドールに同情する看守の優しさのほうだ。これではいかんのではなかろうか。主役にもっと魅力がないと。

 カタロニア地方の「特殊性」は日本人観客には馴染みが薄いと思われ、わかりにくいと思う人も多そうだ。やはり、いくらドラマ性に焦点を当てたとはいえ、もう少し政治的な主義主張やフランコ政権の罪悪など、歴史背景を説明しないと(しかも説明口調でなく)、社会派映画としては成功しない。(レンタルDVD)

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SALVADOR
スペイン/イギリス、2006年、上映時間 135分
監督: マヌエル・ウエルガ、製作: ハウメ・ロウレス、原作: フランセスク・エスクリバノ、脚本: ユイス・アルカラーソ、音楽: ルイス・リャック
出演: ダニエル・ブリュール、トリスタン・ウヨア、レオナルド・スバラグリア、ホエル・ホアン