
ひたすら暗くて救いようのないミュージカル。ミュージカルといってもセリフを歌に乗せているだけで、踊りのシーンはまったくない。ジョニー・デップの歌は予想よりもまともだったが、まあ、うまいとはお世辞にも言えない。
血まみれドピューというのが苦手な人は避けたほうがいいでしょう。かくいうわたしも血しぶきものは苦手なんだけど、怖そうな場面は全部目をつぶっていたから大丈夫(^^;)。
原作は19世紀の舞台劇。ブロードウェイでもミュージカルになったもので、1999年に映画化されている。ティム・バートンの本作は、ジョニー・デップという凄みのある暗い美男子を配して連続殺人鬼を演じさせ、凝ったカメラワークで映画的な退廃的美しさを醸し出す作品に仕立てた。19世紀ロンドンの暗い空、暗い町並みをオーソン・ウェルズ「市民ケーン」ばりのカメラワークで俯瞰していく、映画ファンの背筋をゾクゾクさせる魅惑的な場面をふんだんに生み出した。
色彩のほとんどない映像、登場人物たちも死者のように顔色が悪く、鮮やかなのは血の色だけというおどろおどろしい映画で、恐怖心を募らせる不気味さはたっぷり。スウィーニー・トッドの銀の剃刀の輝きも不気味で怖い。
ついこの前「ボラット」を見たばかりで再びサシャ・バロン・コーエンにお目にかかったが、ボラットとのときとはえらい違いで、この人、男前だということに気づいてしまいました。でも最初にスウィーニー・トッドに殺されるのが彼。
無実の罪で終身刑に処せられたトッドは、岩窟王よろしくじっと復讐のときを待ち、15年後に脱獄してきたのであった。自分を嵌めたターピン判事に復讐するため。15年の間に残された妻は自殺、赤ん坊だった娘はターピン判事の養女となり、彼に監禁同然で育てられていたことを知ったトッドは、パイ屋の二階に理髪店を開業し、ターピン判事の来店を待つ…。復讐の鬼と化したトッドはいつしか連続殺人鬼となり、殺した人間の肉は階下のパイ屋の女主人ミセス・ラベットがひき肉にしてパイに混ぜて売る。恐るべき殺人共犯者たちは罪のない人たちを次々と残虐に殺していく…
スウィーニー・トッドは実在の人物だとか、いいや都市伝説だとか諸説があるようだが、とにかく18世紀から19世紀にかけてのロンドンの暗さはこのような連続殺人鬼の登場も納得できるような陰鬱な雰囲気を人々に与えていたのだろう。産業革命が進んで近代化の波が都市の人々を不安に陥れる…
当時の時代背景の波をもろにかぶったスウィーニー・トッドという人物を現代に蘇らせた意味はなんだろう? 復讐の空しさを描くところがまさに9.11以後の作品だ。ラストの悲しさと陰鬱さ、おどろおどろしさはティム・バートン独特の美学に彩られていて、印象に残る。とはいえ、わたしはやっぱりこういう血まみれものはあんまり好きじゃない(なら見るなって?)。(R-15)
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SWEENEY TODD: THE DEMON BARBER OF FLEET STREET
アメリカ、2007年、上映時間 117分
監督: ティム・バートン、製作: リチャード・D・ザナックほか、原作: スティーヴン・ソンドハイム、ヒュー・ウィーラー、脚本: ジョン・ローガン、撮影: ダリウス・ウォルスキー、作詞詞作曲: スティーヴン・ソンドハイム
出演: ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン、ティモシー・スポール、サシャ・バロン・コーエン、エド・サンダース