これが実話ということに衝撃を受けた、わたしにとっては何も知らないことを知ることができたという意味で興味深い作品だった。しかし、「知らないことを知った」というだけなら映画でなくてもよい、ルポルタージュでもよいのである。映画ならではの表現としてはどうだろうか。よく言えば重厚な演出、悪くいえば外連味がない作品。
しかし描かれていることは外連味がどうとかと、したり顔で述べられるような出来事ではない。7歳の少年を両親から無理やり引き離してローマ教皇の元で育てたという誘拐事件である。それは今、日本で問題になっている宗教二世問題を彷彿とさせる。宗教二世といってもこの場合は両親がユダヤ教徒であり、その息子はこっそり何者かに洗礼されたことによってキリスト教徒とされてしまったという点が日本の二世問題とはまったく異なる。
信じられないことだが、1858年になってもまだカトリックの厳格な教義が生きていて、宗教法が優先するイタリアでは、ユダヤ教徒の親の元でキリスト教徒である子どもを育ててはいけないということになっていたそうな。これは誘拐の正当化のこじつけにしかわたしには思えないのだが、とにかくそんな信じられない理由でエドガルド少年は7歳にして教会によって暴力的に親元から連れ去られてしまう。
そしてその後の彼の何十年にもわたる数奇な生涯が描かれていく。半狂乱になって息子を取り戻そうとする母親の姿には、胸が引き裂かれるような痛みをわたしも感じる。そして結局のところ、息子をとり戻すことができなかった親の哀れに涙する。
時代はイタリア近代化の波が押し寄せるころ。統一国家へと動き始めるイタリアにとって、この事件は大きな論争を巻き起こすことになる。近代国家の論理と宗教界のそれとが起こす軋轢と齟齬、どちらが有利に動くのか?
ものすごく歴史の勉強になった。そしてわたしはイタリア近代史をほとんど知らないことに気づいてわが身の不明を恥じた。勉強しよ。(レンタルDVD)
2023
RAPITO
イタリア / フランス / ドイツ Color 134分
監督:マルコ・ベロッキオ
製作:ベッペ・カスケットほか
脚本:マルコ・ベロッキオ、スザンナ・ニッキャレッリ
共同脚本:エドアルド・アルビナティ、ダニエラ・チェゼッリ
撮影:フランチェスコ・ディ・ジャコモ
音楽:ファビオ・マッシモ・カポグロッソ
出演:パオロ・ピエロボン、ファウスト・ルッソ・アレジ、バルバラ・ロンキ、エネア・サラ、レオナルド・マルテーゼ
