ナチのユダヤ人虐殺に手を貸して美術品を掠奪したオランダ人実業家が、戦後30年を過ぎてようやく罪に問われるまでを、真相追及に奔走した新聞記者の視点で描く。
舞台は1976年のオランダ、アムステルダム。主人公は新聞記者のハンス・クノープ。彼の元に、「近々行われる美術品オークションにかかる作品は大富豪ピーター・メンテンがユダヤ人を虐殺して掠奪したものだ」というタレコミがもたらされる。半信半疑だったハンスもユダヤ人だ。同僚記者は「公文書を調べたが、メンテンの罪はナチの制服を着ていたということだけ。既に刑に服している」と実業界の大物にかかわることを嫌がる。そこでハンスは自ら、「国立戦争公文書研究所」で多数の記録を確認する。
メンテンの豪邸を訪問した彼は執念の取材を始める。メンテンは買収、脅迫、あらゆる手を尽くして記者の調査を妨害しようとする。彼はかつて自分が訴追されたときに判事やオランダ政府、ドイツを逆提訴しているように、金にものを言わせるやり方を貫いてきた人物だ。真相究明に近づくほど、ハンスに危険が迫る。メンテンの手は妻子にまでじわじわと伸びてくる。
証拠集めのためにソ連領内に行くことになった際に、ハンスは反共主義者としてビザが下りるのかどうか危ういという場面がある。ここで初めて、彼の会社は反共主義を旗印にしていたらしいことをわたしは知って驚いた。反共と反ナチは両立するから別に驚くようなことでもないのだが。
ナチハンターの映画はこれまで何作も作られてきた。どれも力作で、引き込まれていく。本作も同じく緊張感の高い作品だ。と同時に、ユダヤ人の執念のようなものを感じて、現在も収拾の兆しが見えないイスラエルとパレスチナの争いに思いを馳せて暗澹たる気持ちになる。
ところで本作では何か国語も聞くことができる。オランダ語、ドイツ語、ポーランド語、英語。ヨーロッパの人たちはかくも容易に英語を話せるのかと感心するばかり。
本作はアーカイブズ映画でもある。記者は調査の過程で公文書を活用する。オランダの公文書制度については、前川佳遠理「オランダ国立公文書館組織と中間書庫」(国立公文書館『アーカイブズ』20号、2005.7)に詳しい。これによると、オランダには12の州それぞれに「国立公文書館(State Archives/ Rijksarchief)」があり、くわえて、市立文書館をはじめとする123の文書館が各地に存在している。「オランダ国民にとって、アーカイブズとは身近な存在であるといえよう」。
なお、本作の素となったと思しきテレビドラマ3作シリーズもAmazonプライムで鑑賞できる。(Amazonプライムビデオ)
2016
DE ZAAK MENTEN
オランダ Color 130分
監督:ティム・オリーフーク
製作:アラン・デ・レヴィータ、カヤ・ヴォルファース
撮影:クーン・ストローヴェ
音楽:リアト・アプデル=ナビ、アンダース・エーリン
出演:ヒィ・クレメンス、アウス・フレイダヌス、ノーチェ・ヘルラール、カリーヌ・クルツェン、アリアン・フォッペン