ほとんど事前の情報なしで見て正解。意外な展開になっていくのが面白くて、最後まで惹き付けられて見ていた。現代オペラをまったく知らないわたしにとって、新作オペラを映画館で垣間見られたことが大いなる収穫だった。
ストーリーは、親世代の夫婦の危機と子ども世代の人種差別問題とがからんで、最後はそうくるか! という展開。監督・脚本のレベッカ・ミラーはなんとあのアーサー・ミラーの娘だとか。知らなかった。
NYに暮らすハイソな夫婦が主人公で、彼らは再婚カップル。夫のスティーブンはオペラ作曲家だが5年間新作が作れなくてスランプに陥っている。そのスティーブンの主治医である精神科医のパトリシアが妻で、彼女の連れ子で高校生のジュリアンと一緒に仲良く暮らしている。パトリシアは病的に清潔好きで、彼女の掃除を手伝う新しい家政婦テレザがやってきた。なんとテレザはポーランドからの移民で、彼女の娘がジュリアンとつきあっているという複雑な関係が発覚した。スティーブンもジュリアンもアフリカ系の肌の色をしているため、白人至上主義の偏見をもつテレザの夫トレイの存在というややこしい事態がもちあがる…。
基本の設定を文字で説明するとややこしいことになるのだが、これは映像でみれば誰が黒人で誰が白人で誰が移民で、誰の身長が低くて誰が長身かということが明らかなのである。だから、偏見というものが見た目で生まれることがよくわかる。
この基本設定にからんでくるのが女船長のカトリーナ。どこかでみたことのある女優だなあ、このおばあさん。と思っていたら、なんとマリサ・トメイだった。すっかりおばあさん化しているではないか。このカトリーナ船長がなかなかワイルドでかっこいい。おばあさんなどと失礼な言い方をしたが、身体は引き締まっているし、ナイスバディである。
全体に設定が複雑なのはそのままストーリー展開の不思議さにもつながっていて、なんでそういうことになるのかと不自然な部分もけっこうあるのだけれど、コメディ要素が強くて、さらにいいタイミングでオペラが挿入されるので全然飽きずに見ていられる。
家政婦(パトリシアの娘の恋人の母)のテレザもどこかで見たことがあるなあと思っていたら、「Cold War」の主演女優だった。透き通るように色が白く明るい金髪なので北欧系の雰囲気が漂う。この映画の登場人物にとって肌の色や髪の色といった要素は偏見の源なので、役者もそのあたりを考えて配置されている。そして偏見の塊のリバタリアン代表みたいなトレイが南北戦争時代の時代劇ごっこに興じるさまもいかにも、という感じで笑っていいのかぞっとすべきなのかと、映画を見ているこちらとしては若干の戸惑いを感じる。
というわけで、話がいったりきたりどこへ転がるのかよくわからないまま進んでいって、最後はハッピーエンドだからまあなんとなくこれでよかったのかな、と思わせる楽しい映画だった。でも潔癖症のパトリシアが、汚らしく見えるスティーブンと夫婦というのは解せない。
2023
SHE CAME TO ME
アメリカ Color 102分
監督:レベッカ・ミラー
製作:デイモン・カーダシスほか
製作総指揮:ダニー・コーエンほか
脚本:レベッカ・ミラー
撮影:サム・レヴィ
音楽:ブライス・デスナー
音楽監修:トレイシー・マクナイト
出演:ピーター・ディンクレイジ、マリサ・トメイ、ヨアンナ・クーリク、ブライアン・ダーシー・ジェームズ、アン・ハサウェイ