今年3月末に映画館で鑑賞した。
この作品はわたしがこれまで見た変な映画のうち3本の指に入る。1本は「タクシデルミア」で、もう1本はなんだろ。思い出せない。本作は最初から最後まで変だったし、魚眼カメラみたいなのを多用するのは「女王陛下のお気に入り」と同じで、衣装も大げさで変だし音楽はもっと変で、壊れた楽器みたいな外れた音だらけの不快でユニークなもの。これだけ「変」がそろうと、美術・衣装・音楽・撮影で何か賞を獲っているに違いない。あ、やっぱりアカデミー賞ほかでノミネートやら受賞やら。
時代は19世紀のイギリスのはずなのだが、主役のエマ・ストーンが時代性を感じさせないミニスカートを履いて登場するのでその斬新さに驚く。美術のセンスも超時代的で素敵だ。全体にとてもセリフが多くて、いかにも小説を映画化した作品らしい。
ストーリーはフランケンシュタインの女版みたいなのだが、一度死んだのに胎児の脳を移植されて生まれ変わったベラがとても美しい造形であり、手術を施した天才外科医のほうが継ぎはぎだらけの不気味な顔貌であるところが面白い。そして赤ん坊のようなぎこちない動きとしゃべり方しかできなかったベラがあっという間に成長し、ついには「世界を変えるのだ」と世界革命戦争宣言みたいなことを口走るようになるあたりは愉快痛快。ビクトリア朝の時代に生きながら反時代的なあけすけな性を語るベラは、無垢さゆえに思ったことをすべて口に出しては顰蹙を買う。空気を読めないどころの話ではないのが笑える。100年早いフリーセックスを実践中。女はどんどん学び知性を磨き賢くなり「解放戦士」へと成長するのに、男は所有欲の権化で内面の下品さと幼稚さがどんどん表出していくという展開が正しくフェミズム的なのも笑える。
奇想天外な転がり方を見せる物語であり、エマ・ストーンが全身全霊全裸で熱演するので、目が離せない。やはりアカデミー賞やらゴールデングローブ賞やら総なめである。映画も奇妙奇天烈だが、原作もいっそう変てこなのではなかろうか。あるいは原作はもっと理屈っぽいのではないかと想像する。精神と肉体の二元論とか、西洋哲学まみれなのではなかろうか。知らんけど。
ベラが船旅の途中で出会うゴージャスな老婆に思わず見とれた。この人も時代を超越する女性。
最後はあっと驚く衝撃の結末。そう来たか、あの奇妙な動物たちは伏線だったのねとここで気づく。いやあー、変なものを見てしまいました(笑)。
んで、次はランティモス監督の最新作「憐みの3章」が上映されるので、これもきっと変に違いないが、ともあれ見に行かなくては。
2023
POOR THINGS
イギリス Color 141分
監督:ヨルゴス・ランティモス
製作:エド・ギニーほか
原作:アラスター・グレイ
脚本:トニー・マクナマラ
撮影:ロビー・ライアン
音楽:イェルスキン・フェンドリックス
出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、
ジェロッド・カーマイケル、クリストファー・アボット