吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

エノーラ・ホームズの事件簿

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 かのシャーロック・ホームズには実は年の離れた妹がいた、という架空の設定で展開されるお話。そもそもシャーロック・ホームズが架空の人物なのだから、そのシャーロックに妹がいたとかいないとか全部架空だから。しかしシャーロック・ホームズほどの有名人かつ人気者になると、もはや生きている人と同じ扱いになっているから、こういう作品も作られるのである。

 エノーラは16歳。そして16歳にして母に捨てられた。変人シャーロックを生み育てた母なのだから、相当に変人なのは当然で、だから娘のエノーラもそのように育った。シャーロックの兄のマイクロフトだけはなぜか上昇志向に煽られる人間になってしまったのだが。

 というように、この一家の成り立ちというか、個性はいろいろ複雑だ。それなりの上流階級(貴族ではなさそうだが、映画内では彼らの出身階層について言及無し。ただし、相当にアッパーな階層であることは間違いなし)の人々の話ではある。シャーロックの妹は幼くして父を亡くし、母に偏愛されて育った。その母が実に自由奔放で、19世紀のイギリスにあって女性解放を訴えた一人であるということになっている。ただし、この映画はミステリー仕立てなので、母の正体はよくわからない。おそらく女性参政権を求める運動体の一員であったであろうことは疑いない。その中でも最も過激派であったサフラジェットの一人ではなかろうか。

 ここで想起するのは「未来を花束にして」という(よくわからない邦題を付けられた)素晴らしい映画である。その映画では、女性参政権を求めた過激派である「サフラジェット」の闘いが描かれる。その映画で重要な人物を演じたのが女優ヘレナ・ボナム・カーターであり、この「エノーラ・ホームズの事件簿」では彼女はエノーラやシャーロックの母を演じているのである。実に縁が深い。

 だから、先の映画作品の記憶がある観客にとっては、エノーラの母であるヘレナ・ボナム・カーター(が演じる母親)がなんだかよくわからないけれども怪しげでかつ過激なことをしていそうだという想像は働くわけだ。

 そのような過去作のイメージを引きずったヘレナ・ボナム・カーター、つまりは今作ではエノーラたちの母親、の個性的な言動もまた光っている。だって、主役のエノーラはひたすら母を尋ねて三千里の旅に出るのだから。

 エノーラが兄のシャーロック顔負けの探偵ぶりを発揮するのもいじらく爽快である。そんな妹の活躍を微笑みながら見ているシャーロックもかわいい。まあ、ここはあくまで家父長制が表出しているんですけど。

 エノーラが知り合った若き侯爵とのその後のロマンスも気になるというあたりで第2作へ続く。大変楽しい演出なので、こういう映画は飽きない。主役を演じたミリー・ボビー・ブラウンが愛らしく勇ましく知的で、大好きです! こんな娘がほしい。

 そして、シャーロックを演じたのがヘンリー・カヴィル、彼がこんなに魅力的だったのは初めてかも? さらにもっと驚いたのは、「世界一キライなあなたに」の金持ち御曹司で超イケメン男を演じたサム・フランクリンが主人公たちの兄、あのいけすかいないマイクロフトを意地悪たっぷりに演じていたこと。もう怖いわ、役者ってすごいね。意地悪で高圧的でいやな兄のくせに妙に男前だから、わたしは思わず感情移入しそうになったんだけど、なるほど。そゆことね。(Netflix

2020
ENOLA HOLMES
イギリス  Color  123分
監督:ハリー・ブラッドビア
製作:メアリー・ペアレントほか
原作:ナンシー・スプリンガー
脚本:ジャック・ソーン
撮影:ジャイルズ・ナットジェンズ
音楽:ダニエル・ペンバートン
出演:ミリー・ボビー・ブラウン、サム・クラフリン、ヘンリー・カヴィルヘレナ・ボナム・カーター、アディール・アクタル、フィオナ・ショウ