吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

偶然と想像

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 今年の正月に映画館で見た映画。2022年の初映画であり、おみくじで大吉が当たったような興奮と満足感を得られた作品だった。

 3部オムニバスの物語はそれぞれが「偶然」をテーマに展開する。3つの話に共通点はなく、それぞれが完全に独立している。共通するのは、やたらと台詞が多くしかもその台詞を棒読みさせるという演出方法をとっている点だ。この「棒読み」は賛否両論があると思うが、もちろん完全な棒読みではなく、登場人物たちが緊迫感のある台詞を応酬するときに際立つ。長広舌の棒読みは、言葉が輪郭を持って立ち上がるという効果を生む。

 台詞が多く、しかもおおむね二人か三人の中心人物しか台詞がないので、役者の演技力に映画の成否がかかっていると言える。そして3話共にそれぞれの演技が光っている。

 第1話、モデルをしている若くて愛らしくまたどこか小憎たらしい表情を見せる芽衣子と、その親友のつぐみがタクシーの中で延々と恋愛話に盛り上がる。つぐみが偶然出会って意気投合したというその男が実は…。女優たちの実年齢が離れすぎているために、芽衣子とつぐみが親友という設定に無理があると感じたが、芽衣子の小悪魔的な魅力に目が釘付けになった。不思議な親近感を覚えて、個人的にはこの第1話が一番好きだ。

 第2話、大学教授に単位を落とされて留年してしまった男子学生が、自分の「愛人」である社会人女子学生に頼み込んでハニートラップをしかけようとするが…。これは大学教授が主役の一人であるだけに話の内容が高等で、小説論にもなっているところが興味深かった。教授を誘惑しようとする女子学生(実は子持ちの主婦でもある)と教授との緊迫感溢れる会話には思わず手に汗握る。だからこの話のタイトルは「扉は開けたままで」なのだ。しかしこのハニートラップの行方が予想を裏切ってどんでん返しとなる展開にはあっと驚いた。そんなダジャレみたいな…(笑)。でもあるあるかもしれない。

 第3話。20年ぶりに出会った元女子高生たちのスリリングな再会。しかし実は人違いだったという落ちが早々に判明する。物語はここから動いていく。同性愛、運命の人、人違いなのに互いに相手の思い出の人物になりきるという展開。枯れていく夫婦生活の倦怠に気づく中年の危機。いろんな要素がさりげなく詰め込まれていて、キアロスタミ監督の「トスカーナの贋作」を想起させるような、「なり切り」演技を見せる女優たちの、素人が演じている演技をプロが演じるという難しさを見せてくれる。

 わたしは3話すべてがたいそう面白く、満足の映画体験だった。ひとそれぞれどれがお好みか語り合うのも楽しい作品だ。

 「偶然」というものが存在しなければ物語は駆動しないということを十分わきまえている濱口竜介の、映画的な偶然をいかにも必然のように見せかける脚本の手練手管が見事で、濱口監督、天才やんかぁ~!と快哉を叫ぶ一作であった。

2021
映画ドラマコメディ
日本  Color  121分
監督:濱口竜介
エグゼクティブプロデューサー:原田将、徳山勝巳
脚本:濱口竜介
撮影:飯岡幸子
出演:古川琴音 中島歩 玄理(第1話)
渋川清彦 森郁月 甲斐翔真(第2話)
占部房子 河井青葉(第3話)