吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

パーム・スプリングス

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 去年劇場で見たのだけれど、結末を忘れてしまったし途中経過もかなり忘れているので、Amazonプライムで配信が始まったのをよい機会に再見。もちろんiPadで、夜寝る前にベッドの中で小刻みに見た。

 タイムループものは珍しくないんだけれど、同じ1日を繰り返すという点ではエヴァ・グリーン主演の「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」、タイムループではないけれど、ヒロインの記憶が一日しか持たない「500回目のファーストキス」とか、けっこう馴染がある。

 物語の粗筋は――妹の結婚披露パーティで飲んだくれていたサラは、ナイルズという男と意気投合するが、二人はなぜかタイムループの中に取り込まれてしまう。実はナイルズは既にとっくにこのタイムループに巻き込まれていて、何度も何度も同じ一日を過ごしており、もう元の世界に戻ることを諦めてしまっている 。二人が同じ一日を過ごすといっても、その一日は毎回微妙に設定が異なっている。この設定の変更がとても面白くて笑いのツボである。 

 とにかく脚本がなかなかにしゃれている。もちろんタイムスリップで永遠に11月9日を繰り返すという設定じたいに説得力はない。これは思考実験なのだ。「時よ止まれと願う恋人たちが同じ一日を永遠に繰り返し、明日は永遠に来なくて歳もとらず死にもせず、そのまま過ごすとしたら本当に幸せなのか?」という問いかけ。

 人は老いていく。それが未来というものだ。一度犯した失敗は取り消せない。それが過去というものだ。過去も未来もあってこその人生なのだ。そして、取り消せないはずの失敗だって、未来に向けてやり直せる。そう信じることで人は前を向いて生きていける。

 というわけで、「なんでそんなタイムループが可能なんだ!」などという真っ当で野暮な疑問さえ抱かなければ楽しめるコメディ。笑いながら見終わってけっこう深い意味があったと思わずにはいられない。ラストシーンには目を疑ったと同時に笑ってしまった。別の世界へと「戻った」のか? そしてエンドクレジットの途中でボーナスカットが挿入される。最近こういう作りの映画が増えたね。そのボーナスカットもよかった。

 この映画のアイデアの元となった「恋はデジャ・ブ」(1993年)より捻りがあって、話も大人向けにエロくて悪乗りも度もアップしており、ずっと面白い。(Amazonプライムビデオ)

2020
PALM SPRINGS
アメリカ Color 90分
監督:マックス・バーバコウ
製作:アンディ・サムバーグほか
脚本:アンディ・シアラ
撮影:クィエン・トラン
音楽:マシュー・コンプトン
出演:アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、ピーター・ギャラガー、J・K・シモンズ、メレディス・ハグナー