吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

はちどり

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 青春物語をあまりにも繊細に描き過ぎたので、ものすごく退屈な映画になってしまった。これを見て喜ぶ人はほとんどシネフィルに限定されそうな気がする。わたしは全然退屈しなかったのだが、それはひとえに主人公があまりにも愛らしかったからだ。

 主人公は14歳のウニという少女。彼女は絶対的な男性優位の儒教道徳の国、韓国にあって、家族からも存在を無視される。両親の期待はひたすら長男であるウニの兄にそそがれるのだ。どんなに成績がよくても女はどうでもいい。それが韓国社会だ。時代は1994年、今よりまだまだ「遅れた」社会であった韓国のなかで、しかし急速な民主化を遂げているその社会で自我に目覚めていく少女の姿を静かに描いた。

 なんとなくわたし自身の子どものころを思い出して心が痛い。どんなに成績がよくても、どんなにリーダーシップがあっても、どんなに負けん気が強くても、女であることを親から嘆かれた身を思い出す。わたしの母はわたしを認めることなく、否定し続けた。それがわたしに親への反抗心を植え付けることになった原因だったのだと今ならわかる。そして今ならわかる、両親がとてもとてもわたしを愛していて、自慢に思っていたことを。

 余計なことは一切に口に出さなかった理性的な、しかし若いころは暴力的だった亡き父を思い出し、愚かで優しい母を思い出し、映画そのものよりもわたしの過去の傷に触れるようなそんなこんなを思い出して、うっすら涙が出る。映画についてはたぶん見る人によって全然評価が異なると思える、そんな作品だった。(レンタルDVD)

2018
韓国 / アメリカ Color 138分
監督:キム・ボラ
脚本:キム・ボラ
撮影:カン・グクヒョン
出演:パク・ジフ、キム・セビョク、チョン・インギ、イ・スンヨン、キル・ヘヨン、パク・スヨン