とても気持ちの良いドキュメンタリーだ。その気持ちの良さの源泉は、カメラを回している監督が被写体であるムツばあさんのことが好きでたまらないという、その溢れる愛情にある。
一人のおばあさんがひたすら山の斜面に花を植えていく。そんな様子を18年にわたって撮影し続けてきた、カメラが追うムツばあさんのふくよかで綺麗な肌色に輝く頬を見ていると、仏様というのはこういう表情をしていらっしゃるのだろうと思えてくる。金銭と交換する労働ではなく、誰のためでもなく、自分のため、みなのために花を植え続ける老夫婦。
秩父の山の急斜面にへばりつく畑をよくぞ先祖から150年も引き継いだものだ。こんなところを開墾したのには何か理由があったのではないかと邪推してしまうのがわたしの悪い癖か。豊かな麓を追われる何かがあったのではなかろうか。それはちょうど明治維新のころだ。この寒村の歴史にも興味がわく。そしてその畑もいまや後継者がいない。だからムツばあさんと夫は畑をやめて、元の山に返していく作業を続けている。
村の老人たちが助け合って生きている姿に感動している都会の自分とはなんなのか、とわが身に刺さる思いがある。
2020
日本 Color 112分
監督:百崎満晴
プロデューサー:伊藤純
撮影:百崎満晴
語り:長谷川勝彦