吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

花のあとさき ムツばあさんの歩いた道

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 とても気持ちの良いドキュメンタリーだ。その気持ちの良さの源泉は、カメラを回している監督が被写体であるムツばあさんのことが好きでたまらないという、その溢れる愛情にある。

 一人のおばあさんがひたすら山の斜面に花を植えていく。そんな様子を18年にわたって撮影し続けてきた、カメラが追うムツばあさんのふくよかで綺麗な肌色に輝く頬を見ていると、仏様というのはこういう表情をしていらっしゃるのだろうと思えてくる。金銭と交換する労働ではなく、誰のためでもなく、自分のため、みなのために花を植え続ける老夫婦。

 秩父の山の急斜面にへばりつく畑をよくぞ先祖から150年も引き継いだものだ。こんなところを開墾したのには何か理由があったのではないかと邪推してしまうのがわたしの悪い癖か。豊かな麓を追われる何かがあったのではなかろうか。それはちょうど明治維新のころだ。この寒村の歴史にも興味がわく。そしてその畑もいまや後継者がいない。だからムツばあさんと夫は畑をやめて、元の山に返していく作業を続けている。

 村の老人たちが助け合って生きている姿に感動している都会の自分とはなんなのか、とわが身に刺さる思いがある。

2020

日本  Color  112分

監督:百崎満晴

プロデューサー:伊藤純

撮影:百崎満晴

語り:長谷川勝彦