吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

ロング,ロングバケーション

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 認知症の夫と末期癌の妻がキャンピングカーに乗って人生最期の旅に出た。目的地は夫が敬愛するヘミングウェイの生家。国語教師だった夫はどんなに頭がぼけてもヘミングウェイの小説は暗誦することができる。美しく気丈な妻は昼間は鬘を被って残り少ない頭髪を隠している。果たして二人は無事に目的地にたどりつくことができるのか?

 認知症の母をもつわたしには他人事とは思えないことが数々に。しかしこの映画で描かれている認知症はごくごく軽症だ。もちろん夫ジョンの運転技術については危険も伴っているだろうが、なんとか妻エラの助けもあって大きなキャンピングカーを操縦していく。

 この二人の道行きが楽しくコミカルで、旅の途中で出会う人々も楽し気な人が多い。とはいえ、途中では怖い目にも遭うし、ジョンは失禁したり妻のことを忘れたり迷子になったりとそれなりに大変だ。

 この二人のこれまでの50年の夫婦生活はキャンプ場で映し出すスライドショーによって観客にも紹介される。この演出が上手い。徐々にわかってくる二人の過去については楽しいことばかりではなかったのだ。そして現在もまた元気そうに見えるエラの病状は極めて悪くなっている。二人は笑ったり怒ったり泣いたりさまざまな感情の起伏に襲われながら、そして両親を案じる娘と息子と電話で会話しながら一路南下していく。

 ヘレン・ミレンドナルド・サザーランド、主役二人の演技は絶品だ。この二人の演技は老夫婦が互いに決して離れては生きていけないことを納得させるものがある。しかしだからといって最後にとった選択は正しいのか? 人生を「正しいか正しくないか」で決めることはできないが、この悲しい結末には納得がいかない。ただ、気持ちはものすごくわかる。

 ジョンが教師だというのがこの映画の背骨のようなもので、彼が滔々と語るヘミングウェイ論を面白がって聞いてくれる若い女性たちという存在が不思議であると同時にどこか希望となっている。(Amazonプライムビデオ)

 2017
THE LEISURE SEEKER
イタリア / フランス   112分 
監督:パオロ・ヴィルズィ
原作:
マイケル・ザドゥリアン 『旅の終わりに』
脚本:
ティーヴン・アミドン、フランチェスカ・アルキブージ、フランチェスコ・ピッコロ、パオロ・ヴィルズィ
音楽:
カルロ・ヴィルズィ
出演:
ヘレン・ミレンドナルド・サザーランドクリスチャン・マッケイ、ジャネル・モロニー