吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アド・アストラ

 長期出張に出たまま帰らない父を探しに行く息子の物語、を宇宙スケールで展開したらこうなりました。基本は父恋もので、ストーリーに斬新さはない。だから、宇宙での場面の壮大さにいかに没入できるかで映画の評価は大きく変わるだろう。後は、空気のない無重力空間で理屈に合わない場面がいくつも登場するとか、まともに考えたらおかしなことはいくつもあるが、まあえっかと思えるかどうかでも評価が変わる。

 美術と撮影の凝り方は半端ないので、そこはとてもよかったのだが、ストーリーが単純なので感動のツボがない。そうなるとブラピの孤独な静的演技が見せどころとなり、そいういう玄人狙いの地味な場面は世評が高くなるポイント。

 フランスで先にIMAXで見ていたうちのY太郎28歳が「絶対見ろ、インターステラーを超えたぞ」と薦めるので期待して見たのだが、映像的には確かにインターステラー超えと言えそうでも感動がない。なぜ感動がないかといえば、ストーリーの骨格となる部分にからむ「その他」の設定がまったく生かされていないからだ。こけおどしのように観客を驚かせたり怖がらせたりするのに、「あれは何だったのか」と最後まで謎のまま。あの猿はなんなんだ?! なんで父親は宇宙で何十年も生きて行けるのか? なんで死体を放置してるんだ?

 いろいろ文句はあるのだが、映像の力はなかなかのもの。これ、IMAXで見たら評価がぐっと上がったかもしれない。やはりこういう広大な宇宙物は没入感がなにより大事だ。

2019
AD ASTRA
脚本:ジェームズ・グレイイーサン・グロス
音楽:マックス・リヒター