吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

家族の波紋

 

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 劇場未公開。当然でしょ、絶対にヒットしない。よくぞ配信しているもんだというぐらいの勢いの、すさまじく退屈な映画。でもわたしは結構気に入っている。
 おそらく主役のトム・ヒドルストンがアベンジャーズのロキ役で人気を得たからソフトがリリースされたのだろう。
 舞台はイギリス南西部にあるシリー諸島。ここに、ヘリコプターに乗ってやってきたのは裕福な家庭の青年、エドワード。彼はこれから1年間アフリカへとボランティア赴任していく。その出発の前に家族でのんびり2週間、島の別荘で過ごそうという母親からの集合がかかったのだ。料理人のローズという若い女性も雇った。
 島には民家がほとんどなさそうで、別荘の周囲には林と海しか見えない。風が強く吹く島の木は髪がなびくような不思議な形に立っている。どんよりと曇った空に波が立ち、海岸の風景は岩だらけでとても海水浴ができそうな感じがしない。そんな荒れてすさんだような風景にもかかわらず緑は深く、亜熱帯植物も生えている。
 この映画の主人公は人間ではなくこの島そのものといえる。島が見せる顔こそがこの映画の家族の心象を表し、この島の風景を描き続ける行為が彼ら家族の心をかろうじてつなぎとめる。この島の風景にわたしは魅せられた。だからこんなほとんど何の動きもないドラマなのにずっと緊張感を保ち続けることができたのだろう。
 映画は淡々と一家3人と、料理人ローズと、そしてもう一人、中年の絵画教師との生活を描くのみ。ほとんどの画面でアップは使われず、カメラは固定で長回し。同じ場面を繰り返し映し出し、少しずつの微妙な変化をじっくりと見せる。台所を細い入口からのぞき込むような角度から写したりもする。ローアングルの固定が目立つ撮影方法からして、この監督は小津安二郎のファンなのだろう。
 エドワードの家族は両親と姉と彼の4人のようだが、なぜか父は別荘にやってこない。やってこない父親はたびたび別荘に電話をかけてくるのだが、父の不在がこの映画に大きな不穏をもたらす。そして、不在の父の代わりになるのが絵の教師だ。彼に絵を習ってエドワードの家族たちは2週間を絵を描いたり散歩して過ごす。なんという優雅な生活だろう。一切の生活臭のない三人の姿が延々と淡々と写される。別荘での休暇なのだからそれはそういうものかもしれない。
 舞台をこのような場所に選んだということは、この映画の狙いが、家族の心理的葛藤をシンプルに際立たせて鮮烈に見せるためだろう。家族で食べる食事も素材は新鮮で高価なものかもしれないが、皿は1枚だけの質素なものだ。余計なものが画面に一切映らない。
 愛し合いながらも互いが理解不能な家族。そして、互いの性格や考え方も気に入らない。ささいなことで激高したり言い争う。そんなことが耐えられない人間もいる。
 そして、諍いがあってもやはり愛し合っていくのが家族なのだろう。何事もないかのようにまた別れていく彼らは、しかし心の底に澱を残して、ときどきその波紋に揺らめきながらこれからも生きていくのだろう。それが家族。 
 ところで、絵画教師がしゃべるセリフがいちいち含蓄ありすぎると思っていたら、本物の画家だという。これには驚いた。
 家庭内の出来事しか描いていないのにも関わらず、ある意味とても映画らしい映画だ。iPadの小さな画面に収まるようなスケールではない画は映画館の大きなスクリーンで見たかった。(Amazonプライムビデオ)
(2010)
ARCHIPELAGO
115分
イギリス

監督:ジョアンナ・ホッグ
製作:ゲイル・グイリフィス
脚本:ジョアンナ・ホッグ
撮影:エド・ラザフォード
出演:トム・ヒドルストン、ケイト・フェイ、リディア・レオナルド、エイミー・ロイド