吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

よこがお

https://media.eiga.com/images/movie/90662/photo/a13daa1722fbe133/640.jpg

 一か月前に見た。既にかなり忘れかけている。

 しかしこれは怖い。「淵に立つ」の深田監督らしい作品だ。今回はさらに脚本が緻密になっている。いくつもの時制が瞬時に入れ替わる複雑な構成を持っているため、いつの話なのかがわかるように、時間の経過を筒井真理子の髪で表す細かい演出を施してあるのが見事。(1)黒い長髪、(2)ショートカットの茶髪、(3)短髪で黒髪にわずかに白髪が混じる。これによって時間が経ったことがわかるのだ。

 物語を事件の起きた順に並べれば、こうだ。主人公の市子は訪問看護師として評判も高く、訪問先の一家である大石家では看護相手の孫である若い女子たちとも仲が良く、特に長女基子の家庭教師のようなことまでボランティアでしていた。ところがある日、基子の妹サキが誘拐されるという事件が起きて、市子の生活は一転する。マスコミから追いかけまわされ仕事も社会的信用も失うこととなった市子は、復讐へと駆り立てられていく。。。。

 タイトルの「よこがお」は、見えていない半分側で人は何を考えているかわからない不気味な存在であるということを示している。善良な人間が持つ二面性を描く心理サスペンスだ。

 何度も夢の場面が出てくる。市子がだんだんと追い詰められ、尋常ではない精神状態へと落ちていく様子をぞっとするような映像で表現している。なにしろ時制が複雑に絡み合うので、市子の復讐劇の目的が観客にも明らかになるにつれ、緊迫感が増していく。そして最後のクライマックスに向けてだんだんホラーっぽくなっていく。人間心理の怖さに震えがきた。

 筒井真理子は全裸で体当たり演技を見せているし、この人の女優魂のすごさをまたもや見せつけられた。今年の各種映画賞を獲るのではないか。

 しかし、話の展開は強引でリアリティを欠く。事件の容疑者の叔母だというだけでマスコミに追いかけまわされ、大切なものをすべて失うなんてちょっとおかしいんじゃないか。もちろんこれは現実にありえる話だけれど、作り物めいた部分が感じられるので、腑に落ちないものが残る。そこが若干残念な部分だ。

 愛憎相半ばする女の感情の怖さを描きつつ、ラストシーンはその怖さの中に何かしら光が見えた。 

2019
111分
日本

監督:深田晃司
製作:堀内大示、三宅容介
脚本:深田晃司
撮影:根岸憲一
音楽:小野川浩幸
出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤蓮、小川未祐、吹越満、大方斐紗子、川隅奈保子